「人としてちゃんとしていないといけない」

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この時のことを、栗山さんは「僕は思わず膝を叩きたくなりました」と綴り、ノーラン・ライアン選手の言葉を次のように反すうします。

 
つまりは、人としての生き方、生き様こそが大事、人間性こそが大事なのだ、ということです。立ち居振る舞いも含めて、みんなが憧れるような人でないといけない。人としてちゃんとしていないといけない。野球がうまい以上に。

こんなふうに超一流の選手から直接、学びを得ることで、僕は人としての価値観のようなものを確立させていくことができたのでした。そして監督になってからも、選手に求めたのは、まさにその価値観でした。やっぱり人だ、ということです。

ノーラン・ライアンにしても、だからこそ、多くの人たちが憧れる存在になった。もちろん結果を出したわけですが、結果だけではなかったのだと思います。

しかしながら、当時は野球選手にも「人間性」が重要だ、といった空気が当たり前だったかというと、そうでなかったことも振り返ります。ファンサービスよりも何よりも、「そんなことをやっている暇があったら、バットを振れ」、そう言われるのが当たり前の時代だったからです。

“試合以外”でも感動を呼んだ2023年WBC

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「子どもたちのため、ファンのため、という思いはありましたが、率先して若い選手がサインをしに行くようなことはありませんでした」と以前の野球界に思いを巡らす栗山さん。しかし、現在の選手たちの姿に、時代の変化を感じ取っているようです。

今はずいぶん変わりました。もちろん、ファンにサインする前に、やらなければいけないことがある。それもわかった上で、選手たちはファンのためにアクションしてくれています。

「やっぱり人なんだ」
栗山さんの言葉を噛み締めながら2023年WBCを振り返ってみても、若手へのアドバイスとサポートを惜しまなかったダルビッシュ有選手、ラーズ・ヌートバー選手をオリジナルTシャツで迎え入れた侍メンバーたち、死球を当てたチェコの選手へお菓子の差し入れをした佐々木朗希選手……などなど。選手一人ひとりの「生き様」「人間性」が窺い知れるような、心温まる物語にも事欠かない大会だったように思います。

メジャーリーグの2024年レギュラーシーズンが開幕し、プロ野球の2024年シーズンもいよいよ開幕目前。今秋には、新たな侍Jで戦うWBSC(世界野球プレミア12)が開催されます。栗山さんの“思い”を受け取った選手たちが、国内外のプレーで、そしてゲーム以外でもどんな感動を与えてくれるのか、ますます目が離せません……!

 

『信じ切る力 生き方で運をコントロールする50の心がけ』
著者:栗山英樹 講談社 1760円(税込)

大谷翔平の二刀流も、WBCの世界一奪還も、「信じ切る力」がなければ実現しなかった。信じること、信じられることによって、毎日が変わり、生き方が変わる。その結果、人は大きく成長していく。運とは、日々の行動の積み重ねで、コントロールするもの。神様に信じてもらえる自分になるしかない。
ダメな自分に向き合い、相手にただ尽くし、日常のルーティンで「信じ切る力」を磨き続けた栗山英樹の、真摯で“実践的”な人生論。
野球を知らない人にも、中学生にも、ビジネスパーソンにも、すべての人に読んでほしい1冊です。


●著者プロフィール
栗山英樹(くりやま・ひでき)

1961年生まれ。東京都出身。創価高校、東京学芸大学を経て、1984年にドラフト外で内野手としてヤクルト・スワローズに入団。89年にはゴールデングラブ賞を獲得するなど活躍したが、1990年に怪我や病気が重なり引退。引退後は野球解説者、スポーツジャーナリストに転身した。2011年11月、北海道日本ハムファイターズの監督に就任。翌年、監督1年目でパ・リーグ制覇。2016年には2度目のリーグ制覇、そして日本一に導いた。2021年までファイターズの監督を10年務めた後、2022年から日本代表監督に就任。2023年3月のWBCでは、決勝で米国を破り世界一に輝いた。2024年から、ファイターズ最高責任者であるチーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)を務める。


撮影/塚田亮平
構成/金澤英恵
 

 
 
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