連続ドラマとしてスタートした、ベストセラー作家、東野圭吾の原作の『新参者』シリーズが、ついに映画『祈りの幕が下りる時』で完結を迎えます。これまでも描かれてきた日本橋署の刑事、加賀恭一郎と父親との確執や過去が、ダイナミックでありながら繊細な手つきで描かれる完結編。加賀を演じ続けてきた阿部寛さんに、このシリーズへの思い、そして年代ごとの自分を楽しむためのヒントについても語っていただきました。
映画のテーマは
「普遍的な親子の愛」
「最初に台本を読んだとき、いよいよ加賀の父親との確執が明らかになるんだなと思いました。加賀はなぜ日本橋という場所にこだわってきたのか。僕自身も長い間考えてきたことが解決すると同時に、加賀が捜査する事件の親子関係や愛というものが描かれています。このふたつが複雑に交錯していく原作を初めて読んだとき、映画化は難しいと思ったんです。でもドラマ『下町ロケット』でもご一緒した福澤克雄監督が、映画として素晴らしい作品にしてくれました」
足かけ8年にわたって同じ役を演じながら、「加賀の役目は、犯人をつかまえるだけでなく、犯罪に巻き込まれてしまった人や、そこに関わって嘘をつかざるを得ない人たちの心の内を救う刑事だと感じました」と、人物の本質にあらためて気づかされたと語ります。
インタビューの間、阿部さんの大きな手に握られていたのは小さく折り畳まれたメモ。それは私たちが事前に提出した質問案を、プリントアウトした用紙でした。席に着く前に答えを考えてきてくれたという阿部さんが言葉につまったのは、この映画に描かれている普遍的な親子の愛について、どう感じましたか? という質問をしたときのことです。
「親から子への愛、子供が親を思う気持ちが描かれているのですがうまく説明できないんです。言葉じゃなくて、泣けるんですよね。何と言ったらいいのか……、“無償の愛”とかそういう言葉では表現できないものなんです。どう思いました? 断ち切りたくても断ち切れないもの? そうかもしれないですね。ぜひ映画館で観て、感じてもらえたらと思います」
40代から50代になるときは怖かった。
でも安泰よりも冒険を
いくつもの当たり役を持つ阿部さんですが、俳優としてどれだけ経験を積んでも新しい発見があることが楽しいと言います。
「最近気がついたのは、演じている役に意外と引っ張られているんだな、ということ。自分では切り替えているつもりだったのですが、穏やかな役をやっているときは穏やかになるし、コミカルで毒舌な役のときは、普段もどうもそうなっているらしくて。よくしゃべる役をやっているときは、マネージャーにもやたらと話すしね(笑)。これは20年以上やっていて、自分でも初めてわかったことです」
ミモレ世代のなかには、阿部さんのモデル時代からのファンになり、一緒に年齢を重ねるような気持ちで応援してきたという方も多いかもしれません。
「甘い気持ちでモデルからこの世界に入ってきたからすぐに仕事がなくなって、7,8年芽が出なかった。だからそれ以来何でもやってきました。自分のイメージじゃない舞台もVシネマの濡れ場も楽しかったです。それを超えて次に進んで行こうという気持ちがずっと自分のなかにあって、この思いは絶対に忘れたくないものですね」
安泰よりも冒険を。その気持ちをエネルギーにしているから、「53歳になった今でも“まだまだ”と思う」と阿部さん。
「30代はがむしゃらにやってきた10年でした。40代は仕事も生活ももう少し落ち着いて、ひとつひとつ確かめながら進んできた感じです。それを踏まえて50代を迎えたわけですが、50歳になる前は怖かったですよ。やっぱり新しい10年を迎えるときは、怖いものですよね。20代後半、30代後半のときもそうだった。次の60代が来るまである意味無礼講だと勝手に思って、今までの経験をなりふり構わず作品にぶつけようと思ってます。楽しみながらね」
<映画紹介>
『祈りの幕が下りる時』
東京都葛飾区の古びたアパートの一室で、死後何日か経過した女性の遺体が発見される。絞殺された被害者は、滋賀県在住の押谷道子。アパートの住人である越川睦夫もまた、行方が分からなくなっていた。警視庁捜査一課の松宮が調べを進めるうち、捜査線上に日本橋署刑事の加賀(阿部)とも接点がある舞台演出家の浅居博美が浮かび上がるが……。
原作:東野圭吾「祈りの幕が下りる時」(講談社文庫) 監督:福澤克雄
出演:阿部寛 松嶋菜々子
2018年1月27日(土)全国東宝系公開
©2018 映画「祈りの幕が下りる時」製作委員会
撮影/衛藤キヨコ ヘア&メイク/丸山良
スタイリスト/土屋詩童 取材・文/細谷美香
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