『ロング,ロングバケーション』
監督:パオロ・ヴィルズィ
出演:ヘレン・ミレン、ドナルド・サザーランド
配給:ギャガ 2018年1月26日(金)TOHOシネマズ 日本橋他全国順次ロードショー
© 2017 Indiana Production S.P.A.
女子会の話題は年々移り変わり、自分たちの健康問題とか親の介護問題になっていくよ~、と先輩たちから聞いていた通りの流れになってきました。いつまでも娘の脳内のまま、たまに会ったときに親の老いを感じて切なくなる、なんてことも増えてきますよね。親だけではなく自分たちの“終活”についても考えはじめるミモレ世代にとっては他人事ではない映画『ロング,ロングバケーション』が公開されます。
長年連れ添ってきたジョンとエラがキャンピングカーに乗り込んで向かうのは、文学教師だったジョンが愛するヘミングウェイの家。ジャニス・ジョプリンの歌声に乗せて車が走り出しますが、実はジョンはアルツハイマーが進行し、エラは末期ガンを患っています。子供たちの心配をよそに、ふたりが内緒で実行に移した“最後の旅”。明るい陽射しのなかを進んでいく旅ですが、半世紀も人生をともに歩いてきたから夫婦だからこその楽しさと綻び、老いることの美しさだけではなく残酷さの両方が描かれています。
知的な夫婦らしいウィットに富んだ会話や、ナイフをつきつけてきた若者への毅然とした態度は、惚れ惚れするほど。けれどもジョンのまだらな記憶は危なっかしいし、ほろ酔い気分でロマンチックにダンスを踊れば、エラは嘔吐してしまう。きれいごとばかりではない面もしっかり描いているからこそ、ふたりの冒険の旅がよりスリリングに、より豊かに感じられるのです。出会った頃の初々しさを変わらずに持ち合わせているわけではないけれど、嫉妬もあれば、お互いへの敬意もある。そして老いたふたりのセックスに関する描写やユーモアがあるところも、アメリカ映画らしくてとても好きだなぁと思いました。
『人間の値打ち』などで知られるイタリアの監督、パオロ・ヴィルズィのもとで、滋味あふれる名演を見せてくれたのはドナルド・サザーランドとヘレン・ミレン。ラストで描かれるふたりの選択を目にして清々しさを感じるとともに、もしも自分なら同じように“自由”を求めたかもしれない。でも私が家族なら複雑な思いになるだろうか……? と頭のなかがぐるぐるしてしまい、答えはまだ出ないまま。ミモレ読者のみなさんは、どんなことを感じるでしょうか?
PROFILE
細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
細谷さんの他の映画記事を見る