東京・六本木の国立新美術館で開催中の、「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」。注目はなんといっても、「絵画史上最強の美少女(センター)」のキャッチが目を引く、ルノワールの少女像。そういえば、印象派といえば、風景画のイメージですが、この作品のようにルノワールなら少女像があり、ドガの踊り子も有名……。印象派の画家たちの描いたテーマに共通項はないのでしょうか? 今月発売された『代表作でわかる 印象派BOX』とともに、探ってみましょう。
Q.印象派は田舎の風景画ばかり描いていたのですか?
A.いいえ、都会ばかり描いた画家もいます。
印象派は画家たちの自由な集まりです。各々、好きなテーマを選んで描いていました。ですから、モネやシスレーのように、郊外の風景を好んだ画家もいれば、ドガやカイユボットのように都市風景を主題とした画家や、ルノワールのように画業後半は人物ばかり描いた画家もいるのです。
Q.都会を描いても印象派なんですね。意外です。
A.共通するのは、「今」を描いたことです。
そうですね。例えばモネとドガは、テーマも画風もまったく異なるので、同じ「印象派」という言葉でくくられることを不思議に思われるかもしれません。そんな彼らに共通するのは、「今」、つまり同時代のさまざまな様相を描いたことです。神話画などの歴史画を絵画の主題として重んじてきた伝統に反旗を翻したのです。
Q.「戸外制作」といいますが、外の絵を外で描くって普通のことなのでは?
A.昔は誰もがアトリエで描いていました。
印象派以前も屋外で描くことはありましたが、それは下絵やスケッチ、水彩に限られていて、油彩画はアトリエで描くものでした。印象派の画家たちは、油彩も戸外で描きましたが、その背景には19世紀に入って発明されたチューブ入り絵の具の登場がありました。この発明以前、油絵の具はアトリエでそのつど、油を混ぜて用意するもので、持ち運びはできなかったのです。
Q.戸外で制作すると何かいいことがあるんですか?
A.自然の「明るさ」を発見できました。
戸外制作を通じて、モネをはじめとする印象派の画家たちが実感したことは、自然は明るく光に満ちているという事実でした。印象派の画家たちは、戸外で見たこの実感を描こうとさまざまな技法を模索するのです。そのひとつが、「絵の具を混ぜない」という描き方でした。それまでの画家たちは、絵の具を混ぜて実物に近い色を作り出していました。しかし、絵の具の色は混ぜると濁り、暗くなります。そこで、絵の具を混ぜずに細かな色面として併置する「筆触分割」の技法を用いることで、光に満ちた自然の明るさを表現したのです。
【至上の印象派展 ビュールレ・コレクション】
会期:2018年2月14日(水) ~ 5月7日(月)
開館時間:午前10時~午後6時
(毎週金・土曜日、4月28日(土)〜5月6日(日)は午後8時まで)
※入場は閉館の30分前まで休館日毎週火曜日(ただし5月1日(火)は除く)
会場:国立新美術館(東京・六本木)
福岡・名古屋に巡回予定。
冨田 章
美術史家。東京ステーションギャラリー館長。1958年、新潟県生まれ。慶應義塾大学卒業、成城大学大学院修了。財団法人そごう美術館、サントリーミュージアム[天保山]を経て、現職。専門はフランス、ベルギー、日本の近代美術史。著書に『偽装された自画像』(祥伝社、2014)、『ビアズリー怪奇幻想名品集』(東京美術、2014)、監修書に『魅惑のベルギー美術』(神戸新聞総合出版センター、2013)、訳書に『ゴッホの手紙 絵と魂の日記』(西村書店、2012)、『クリムト』(西村書店、2002)、『ゴーガン』(西村書店、1994)などがある。
『代表作でわかる 印象派BOX』
冨田 章:著 2000円(税別) 講談社
画家の生涯、代表作、人物相関……小さな1冊で印象派のすべてがわかる! 印象派と周辺画家、合計32人の作品を収録した小さな印象派事典。画家の生涯と作品150点をやさしく解説。
構成/久保恵子
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