『君の名前で僕を呼んで』©Frenesy, La Cinefacture

今回紹介する『君の名前で僕を呼んで』は、言葉で魅力を伝えるのが難しい映画かもしれません。イタリアの避暑地で出会った17歳の少年、エリオと24歳の青年の恋を描いた作品なのですが、物語はスローテンポで進んでいきます。温度にたとえると、ずっとぬるま湯、と表現してしまうとつまらないように感じてしまうかもしれないけど、決してそうじゃないんです! 次に一体何が起こるんだろう!? とドキドキさせながらも、観客を無理にエキサイトさせるようなことは起こらない。ふたりの関係も一気に燃え上がるかと思いきや、戸惑ったり、余裕ぶってみたり、嫉妬したり……。きれいなふたりですが、はしゃぐときやじゃれあうときは子供みたいにかわいくて、色々な表情を見せてくれます。

官能的な描写で心に残ったのは、エリオがベッドの上で桃を使うシーン。靴でベッドに上がるシーンを見ただけで無理…! ってなっちゃう私は、あ~! シーツをそんなにべちゃべちゃにして! と思ったりもしましたが(笑)、この監督は人間の欲望の描き方がとても美しいんですよね。生々しい欲望をリアルでありながら品よく描くって、すごく難しいこと。ふたりのベッドシーンもすべてをはっきりと見せすぎないところに、監督の美学を感じました。

 

もうひとつ面白かったのは、インテリジェンスのある欧米の家族の暮らしぶりを垣間見れたこと。最後までスローテンポなのは、彼らの生活のリズムを表すためなのかも、と思いました。エリオと両親との関係もちょっと普通ではなくて、いつも学問や文学、音楽の話をしているんですよね。両親ともに心と視野が広くて、みんなが何ケ国語も話せるのが当然の環境。北イタリアの風景がきれいで、観ていると自然の中に入っていくような感覚になりました。私も水への怖さを克服して、自由に泳いでみたいなぁ。何よりこんなに美しい場所で、ひと夏の恋を味わったエリオがうらやましい(笑)! 

 

最後の父親の言葉、それを聞いているエリオ役のティモシー・シャラメの顔、エンディングの表情も本当に素晴らしかった。私もこのお父さんのような大人になりたいと思いました。“上質な映画を観た”という気分を、たっぷりと味わえるおすすめの作品です。

 

 

『君の名前で僕を呼んで』
1983年夏、北イタリアの避暑地。17歳のエリオは、アメリカから来た24歳の大学院生オリヴァーと夏の間をともに過ごすことに。初めは反発しあうも、やがて激しく恋に落ちていった。が、オリヴァーが去る日は刻々と近づいてきて……。17歳と24歳の青年の初恋を描き、今年のアカデミー賞では作品賞、主演男優賞、脚色賞、歌曲賞の4部門にノミネート、脚色賞を受賞した。4月27日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー。配給:ファントム・フィルム ©Frenesy, La Cinefacture