『⼦どもが教えてくれたこと』
監督:アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン
出演:アンブル、カミーユ、テュデュアル、イマド、シャルルほか
配給:ドマ 7⽉14⽇(⼟)よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次ロードショー
© Incognita Films ‒ TF1 Droits Audiovisuels
『子どもが教えてくれたこと』の主人公は病を抱えた子どもたち。それぞれに違う病気と戦いながら、日々を精いっぱい生きている5歳から9歳の子供たちの姿を見つめたドキュメンタリーを紹介したいと思います。
動脈性肺高血圧症、神経芽腫、慢性腎臓病、表皮水泡症といった病を患っているアンブル、カミーユ、テュデュアル、イマド、シャルル。いつも薬剤のポンプが入ったリュックを背負っている子、すぐに剥がれてしまう皮膚を守るために全身を包帯で守っている子、透析のために鼻に管を通している子……、ときには涙を見せながら痛みに耐え、小さな体で治療を受ける姿が映し出されています。
けれどもこのドキュメンタリーのメインは辛く悲しい瞬間ではなく、心に残るのは彼らの弾けるような笑顔! 病院の廊下を遊び場のようにして駆け回り、友だちとおしゃべりをしてケラケラと笑っている。私たちがもう手放してしまった屈託のなさに救われ、励まされているのは周りの大人たちなのかもしれません。日常の風景のなかには、彼らの意思をできる限り尊重しようと耳を傾ける病院のスタッフや、家族の思いも描かれています。
まだ10年にも満たない人生のなかで、何度も大変な経験をしているからでしょうか。想像するよりもずっと現実を知っている彼らが、親に心配をかけたくないと家族を思いやる場面では、その健気さと優しさに胸がぎゅっと締め付けられました。子どもたちが何気なく発する言葉は、心にメモしたい名言の宝庫。なかでも「悩みごとは脇に置いておくか、付き合っていくしかないの。愛してくれる人がいれば人生は幸せだと思う」という言葉が胸に響きました。自分のありのままを受け容れて、ひとつひとつ対処していくこと。そして、周りの人たちに感謝すること――。彼らの言葉は、自分で自分を幸せにするためのヒントに満ちています。
監督は73年生まれのアンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン。4人の子どものうちふたりを、異染性白質ジストロフィーという難病で亡くした経験を持つ彼女は、長女の闘病と思い出を『濡れた砂の上の小さな足跡』(講談社)にも綴っています。かわいそうという同情や憐れみ、感傷に流されることなく、その一瞬一瞬を生き切る子供たちの力を信用する。そんな視線がベースにあるからこそ撮ることができたであろう表情がたくさんつまった、病ではなく命のきらめきについてのドキュメンタリーです。
PROFILE
細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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