同じような事態は電子メールの分野でも進行している。近年、先進的な企業では、社内の連絡手段を電子メールからビジネスチャットに移行するところが増えているのだ。
ビジネスチャットは、個人向けのチャットサービスを企業向けに拡張したもので、米スラック・テクノロジーズの「Slack」というサービスが有名である。今のところ導入しているのは、DeNAやサイバーエージェント、リクルートといった一部企業に限られるが、このサービスが本格的に普及した場合、企業の現場に劇的な変化をもたらす可能性がある。
社内コミュニケーションには、大きく分けて3つのパターンがある。ひとつはライン上の指示・命令で、特定の相手に対して指示を行い、指示を受けた人は報告を返すというもの、もうひとつは多数への告知、最後はアイデアや情報の緩やかな共有である。
電子メールも終わりを迎える?
電子メールはいかようにでも使えてしまうので、多くの人はこのツールが持つ基本的な特徴をあまり意識せずに使っている。だが、電子メールは紙のレターの延長線上として出来上がったツールであり、基本的にライン上の指示・命令や一斉同報といった用途に向いている。多くの人と情報を共有する目的には実はあまり合致していないのだ。
電子メールのCCはカーボンコピーの略だが(最近は複写用のカーボン紙を知らない人もいるかもしれない)、これはレターを複写して必要な人に送るという企業文化から派生している。まずは1対1のやり取りがあり、その情報をシェアすべき人を厳密に選択することが大前提となっている。
業種にもよるだろうが、各人が「とりあえず」といった理由でCCを付与し、読み切れないほどのメールが行き交っていないだろうか。これでは、どれが重要な業務連絡なのか、単なる情報のシェアなのか分からなくなってしまい、かえって生産性を引き下げる。こうした職場の場合、ビジネスチャットを導入する効果は大きいだろう。
あるIT企業では、ビジネスチャットを導入したところ、案件に対する有益なアドバイスがたくさん出てくるようになったという。うまく使えば、顔を合わせてのコミュニケーションに近い形になるので、むしろ日本人には受け入れやすいかもしれない。
こうした新しいツールが普及してくれば、電子メールは対外的、かつ正式なやり取りという限定的な用途にシフトしていく可能性が高い。電話と同様、電子メールが持つ本質的な役割のシフトが進んでいるのだ。
加谷 珪一/経済評論家
1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「新富裕層の研究-日本経済を変えるあらたな仕組み」(祥伝社新書)、「お金持ちはなぜ、「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「教養として身につけたい戦争と経済の本質」(総合法令出版)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
Comment