血縁関係はないものの、今年の春まで、6年に渡って六畳一間で“ふたり暮らし”を送っていた阿佐ヶ谷姉妹。現在は同じアパートの“お隣暮らし”というカタチに切り替え、緩やかな共同生活を送っています。未婚率の上昇に加え、長寿化により、配偶者に先立たれた後も長い独りの人生が続くかもしれないこれから。ともに40代独身の二人はどう生き抜こうと考えているのか、現在の暮らしぶりとともにお伝えしたいと思います。

阿佐ヶ谷姉妹 渡辺江里子(1972年生まれ・東京都出身)、木村美穂(1973年生まれ・神奈川県出身)から成るお笑いコンビ。由紀さおり・安田祥子姉妹のモノマネを演じ、ブレイク。様々なバラエティ番組に出演している。また今年7月に、リレー形式のエッセイを綴った『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(幻冬舎)を刊行。姉妹と名乗っているが、血縁関係はない。

 

お隣暮らしを始めて半年。良い点とは?


阿佐ヶ谷姉妹が“ふたり暮らし”から“お隣暮らし”に切り替えた一番の理由は、物が増えすぎてそれぞれのパーソナルスペースが確保できなくなったこと。最初は二間ある部屋での同居を考えていましたが、たまたま同じアパートの隣の部屋が空いたため、一人暮らしのお隣同士というカタチに落ち着きました。それから半年が経った今、“ゆるいふたり暮らし”の印象を伺ってみました。

姉の江里子さん。

江里子さん 良い点は、同じ部屋で暮らしていたときの不満の反対でもあるんですけど、まずは好みの体感温度で過ごせるようになったことですよね。温度を変えるのにお互いの顔色を伺わなくていいので、ストレスが減りました。

美穂さん お風呂も、早朝仕事のときはどっちが先に入るか、けっこう揉めていたんです。後に入るほうが、その分長く寝られますからね。姉からは「一ヵ月交代にしてほしい」と言われていたんですけど、結局、ほぼ私が後に入っていたんですよね。

江里子さん 美穂さんは「私は朝が弱いから仕方がない」と独自の論を展開して、全然要望を聞いてくれなかったんですよ。お風呂問題は、二間あるアパートに引っ越しても解決しなかったので、これはお隣暮らしにして良かった点ですね。

 

会話が減って一抹の寂しさも


反対に、お隣暮らしのマイナス点だと感じたことは何でしょう?

江里子さん 私は仕事が終わった後とか休日とか、美穂さんとちょっとしたことを話すという時間が楽しかったんですけど……。今もお互いの部屋の合鍵は持っていて、ノックだけして勝手に入っていくのでいつお喋りに行ってもいいんですけど、美穂さんに「来たな」みたいなことを言われると、嫌がられているのかな、入っちゃいけなかったかな、などと思ったりして、ちょっと壁ができたような……。

妹の美穂さん。

美穂さん たしかにちょっと会話は減ったのかな? 六畳一間のときのほうがコントのネタは生まれましたよね。

江里子さん 反対にLINEは増えたわよね。

美穂さん 私はパーソナルスペースができてものすごく快適なんですけど、姉は寂しいみたいで、一人になってから犬のぬいぐるみを枕元に置いて寝てるみたい。

江里子さん ここにきて急に、ぬいぐるみの温もりを求めるようになったわ。でも手足を広げて寝られるというのはすごいことですよね。

美穂さん 私はあんまり寂しいというのはないですねぇ。壁越しに気配が伝わってくるし、夜はお姉さんのイビキも聞こえてきますし。

江里子さん やだ、ホントに!? あとはお手洗いの頻度が増えましたね。

美穂さん 今は行きたい放題。お姉さんは一人になりたいときトイレに引きこもってましたから、行きたくても行けないことが多かったんですよね。

江里子さん それは悪いことをしたわね。

 

家族ではないからこそマメな話し合いが大切


多少の寂しさはあるものの、二人とも現在のお隣暮らしに概ね心地よさを感じているよう。これからの時代は、同じように友達同士での共同生活を始める人も増えてきそうですが、経験者のお二人が感じる“ふたり暮らし”に向いている人、向いていない人というのはありますか?

美穂さん うーん、私も一人っ子でかなり共同生活は我慢できないほうで。最初はムリかなと思いましたけど、6年も続きましたからね。意外と何とかなるんじゃないでしょうか。

江里子さん 「これはそっちの担当」とか「これしてくれて当たり前じゃない?」とか、求める気持ちが強い人はしんどいかもしれませんね。自分の思っていることが受け入れられないと、共同生活はストレスが貯まりますから。

そう聞くと、お互いの役割を明確にルール化しておいたほうが良いのでしょうか? 長年の“ふたり暮らし”で見出した、うまくやっていく秘訣も是非教えてください。

江里子さん もちろん共同生活となるとある程度のルールはいりますけど、あんまりきっちりすると、それが守られなかったときに相手を責めたり、反対に自分が守れなかったときに責められたりしちゃいますからね。

美穂さん 私たちは、どちらかといえばお料理担当、お掃除担当と、ゆるやかに決めていましたよね。

江里子さん そうそう、私も美穂さんも几帳面なタイプじゃないので。でも、なあなあにしすぎるのも良くないと思います。相手に嗅ぎ取ってもらったり察してもらったりするのって、意外と難しくて。「何で気づかないのっ」とストレスが大きくなる前に、チョコチョコ話し合ったほうがいいと思います。私たちは仕事仲間でもあるので、プライベートで不協和音が出ると仕事に支障が出ますから、そこは考えながら、いい緊張感を持ってやっていたと思います。夫婦や親子となると、なかなかそうはいかないと思うんですけど。

美穂さん 私たちはWEBでエッセイの連載を持たせてもらっていたので、お互いの不満をそこで客観的に書いて溜飲を下げているところもありましたよね。家族も不満があったら、日記やSNSに書いて発散するといいかも。……でも何だかんだ、姉には感謝しているんですよ。同居に誘ってくれて。やはり一人でいるとどんどん内にこもっていくので、気軽にコミュニケーションがとれる環境があるというのはありがたいですよね。

江里子さん いつも一人ですから、人といる時間は大切。いいときも悪いときも含め、このくらいの歳になるとその貴重さを痛感しますよね。

二人は現在、同じアパートでおとなり暮らし中。

 

世田谷姉妹や保土ヶ谷姉妹が生まれる社会に


そう語る阿佐ヶ谷姉妹ですが、具体的な老後の設計図は描いているのでしょうか? この先も二人で支え合って暮らしていきたいと思っているのか、それともまったく違う暮らしのイメージがあったりするのか……。

江里子さん ゆくゆくは独り身女性たちが集まって暮らせる場所が作れたらいいなと思いますね。阿佐ヶ谷ハイムじゃないですけれど。二人だけだと何があるか分かりませんから。それこそ、どちらかに恋が生まれてしまうかもしれないですし! 何とか仲間を増やしていきたいですね。きっと、そんなに愛とか恋とか起こらない人だって多々いるでしょうし、今は結婚していても先のことは分からないと言っている人も少なくないですから……。

美穂さん で、住むのはやっぱり阿佐ヶ谷がいいですね。

江里子さん そうね。私たちはなんちゃって姉妹ですけど、今のご近所さんは「妹さん、元気?」とか言ってくださって、温かいし。なんちゃって家族はまだ世の中にそんなに多くないですけど、そんなふうにニュートラルに受け入れてくれる環境がもっと増えていくといいですよね。

美穂さん それで各地に、世田谷姉妹とか保土ヶ谷姉妹といった老人ホームを作っていくとか?

江里子さん あら、そこまでビジネス展開は考えてないわよ。

美穂さん でもそうなると、老後はますます健康が大事になってきますよね。お友達を作るにも健康じゃないと無理だし。

江里子さん そうね、お金なんていくらあってもね。独り身の女の老後にとって、健康と話し相手はプライスレスよね。友達とまでいかなくても、ご近所さんと天気の話をするだけでも脳の刺激になると思うし、ずっと今みたいな環境をキープしていきたいですね。


いかがでしたか? お二人のお話を聞いて、老後の選択肢が一つ増えたような気がしたのではないでしょうか? きっとこれからは、友達との同居だったり、あるいはお隣暮らしだったりと、阿佐ヶ谷姉妹のような選択をする人も増えてくるはず。是非今回のお話を参考に、「自分はどんな老後を選ぼうかな」と楽しく考えてみてください!

 

『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』
阿佐ヶ谷姉妹 著
¥1200(税別) 幻冬舎

江里子さんと美穂さんがリレー形式で送るエッセイ集。六畳一間・ふたり暮らし中に書かれたもので、その良さと苦労が、面白おかしく伝わってきます。「老後は女友達と同居して助け合うのもいいかな?」などと考えている人は、参考になるエピソードがいっぱいあるので是非読んでみて。また本書には、二人が初めて手がけた短篇小説も収録されています。

撮影/横山翔平(t.cube)
取材・文/山本奈緒子
構成/柳田啓輔(編集部)

 

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