50歳までに一度も結婚したことがない人の割合は、男性23.37%、女性14.06%。2015年におこなわれた国勢調査では、この「生涯未婚率」が過去最高を更新したことが話題となりました。一方で、映画『万引き家族』やドラマ『義母と娘のブルース』など、新しい家族のカタチを描いた作品が大ヒットを記録してもいます。結婚して子どもをもうけて……という家族観が決して当たり前ではなくなってきた昨今。そんな流れの中で、“女ふたり暮らし”という選択をしていた阿佐ヶ谷姉妹にお話を伺ってみました。そこには百年ライフを生き抜くヒントもたくさん詰まっていますので、是非ご一読ください!
二人暮らしの始まりは“仕方なく”
この春から“ふたり暮らし”は解消し、新たに“お隣暮らし”というカタチを取り始めた阿佐ヶ谷姉妹。ですがお二人はそれまで、何と六畳一間に6年間も一緒に暮らしていました。そのコンビ名から実の姉妹と思われがちな二人ですが、血縁関係はなし。それがなぜ一緒に暮らすことになったのでしょう?
江里子さん もともと私が住んでいたアパートに、仕事帰りに美穂さんが一回寄っていたんです。美穂さんのアパートは同じ阿佐ヶ谷だったんですけど、私のところより駅から倍くらい時間がかかるところにあったんですね。それでウチで一回休憩しているうちに、そのまま寝てしまってウチからバイトに通う、というようなことが週5日くらい起こるようになって。それならいっそ同居したほうが家賃も浮いて良くないですか?と、私から持ちかけたんです。ところがそこからかなり渋られまして……。
美穂さん 私は一人っ子でパーソナルスペースがないとダメな人間なので、最初は絶対無理だと思ったんですよ。だから姉にふたり暮らしを打診されても1、2年近く態度を保留にしていました。それでも踏み切ったのは、経済問題ですね。家賃を払うのが苦しかったので、最初は仕方なく同居を開始したんですが、これが意外と何とかなりました。
どうでもいい話をいつでもできるのがふたり暮らしの良さ
同じ部屋での生活はなかなか大変そうですが、それでも仲のいい女友達とのふたり暮らし。多少の憧れを覚えますし、「夫に先立たれて二人とも独り身になったら一緒に暮らそうね」なんて約束をしている人も、少なからずいるのではないでしょうか。そこで実際にふたり暮らしを経験した阿佐ヶ谷姉妹に、リアルな良かった点、苦労した点を教えてもらいました。
美穂さん 良かった点……。うーん。お姉さん、お先にどうぞ。
江里子さん え? ないの? んもう……。私と美穂さんは仕事でも一緒だったので、「あれが面白かったわね」とか、帰ってからすぐその日のことを話せるのが良かったですね。仕事の話以外にも、「どこそこに猫が三匹いた」とか、「今日はスーパーで豆苗が安くて得した」とか。独り身の人間にとって、どうーでもいい話を話したいと思ったときにできるというのは、ものすごく貴重なことなんですよね。
美穂さん 私が風邪を引いたときはスポーツ飲料を買ってきてくれたり、助け合いもありましたよね。
一緒に暮らすとなると家事の分担が難しそうですが、そのあたりはどうされていたのでしょう?
美穂さん 何となく、お姉さんが料理をして、私が掃除、洗濯をしていましたね。
江里子さん 私は洗濯物をたたむのが大嫌いなもので。たまに「なんでこんなに洗濯物がたくさんあるの」とか文句を言われたりはしてましたけど、家事については揉めたことはあまりなかったわよね?
美穂さん そうですねぇ。
では反対に、ふたり暮らしの大変だった点にはどういうことがありましたか?
江里子さん 美穂さん、どうぞ。こっちはスラスラ出てくるんじゃなくて?
美穂さん そうですねえ、夏になるとエアコンの温度設定が大変でしたね。私は27、28℃がベストなんですけど、姉は29℃が良くて。
江里子さん 夏の1、2℃の差ってけっこうシビアなんですよ。どちらかが上げたり下げたりすると、「暑い!」「さむっ!」となるので。
美穂さん 夜中に私が28℃に下げると、お姉さん、これみよがしにお布団を顔の真ん中まで上げたりしてね。
江里子さん あら、温度を上げてもらわなくてもいいよう気を遣ったのに、これみよがしだなんて……。あと窓も部屋に一つしかなかったので、どちらを開けるかも……。二人とも自分に近いほうを開けたいので争奪戦でした。
美穂さん こっそり自分側を開けておいたのに、ちょっと気を抜くといつの間にかお姉さん側に変わっていたりしましたね。あと私は、お姉さんのイビキが……。大抵お姉さんのほうが早く寝るので、私はお姉さんのイビキを聞きながら寝ることになるんですよ。それでなかなか寝付けない。
江里子さん 私は私で、美穂さんが深夜までものすごい不気味なカエルの動画や、カッコウが巣から卵を落とす動画とか見ていて。そのものものしいナレーションが聞こえてきて、目を覚ますんですよ。
美穂さん そんな、不気味って……。
ふたり暮らしからお隣同士の一人暮らしへ
こんな細々とした不満に加えて、お互いの持ち物が増えたこともあって、六畳一間のふたり暮らしはさすがにきつい、二間ある部屋に引っ越そう! とお二人は考え始めました。
江里子さん どんどん物が増えて、いられる場所がお互いの布団の上だけになってきて。極めつけは美穂さんがセミダブルの布団を買ったことにあります。それにより、ますます私のパーソナルスペースが狭くなってしまいました。美穂さんは美穂さんで私のイビキがきついと言っていたので、「個人の空間がもっと欲しいわね」と二間ある部屋を探し始めたんです。ところが、これがなかなかいい物件が見つからなくて……。
美穂さん 見つけたと思ったら、マンション名が「レ◯デンス荻窪」だったりして。阿佐ヶ谷姉妹なのに荻窪って何か後ろめたいよね、と話し合ってお断りしたこともありました。そうこうしていたら本当にたまたま、住んでいた部屋のお隣が空いたんです! こんな奇跡があるんだ!と思いましたね。
江里子さん 今のアパートは大家さんもいい人だし、ご近所さんも料理を差し入れてくれたりと人情があるし、そんな環境も気に入っていて離れ難かったので、理想的な結果になりました。ということでこの春から、ふたり暮らしを解消してお隣同士の一人暮らしが始まったんです。家を別々にしたことで私たちの関係性がどう変わっていくかはまだ分かりませんが、今後も二人で協力し合って暮らしていけたらと思っております。
そうしてお隣暮らしを始めて半年の月日が経過。次回は、お隣暮らしならではのメリットデメリット、そしてお二人の老後の不安、夢などについてもお届けしたいと思います。10月14日公開となりますので、お楽しみに!
『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』
阿佐ヶ谷姉妹 著
¥1200(税別) 幻冬舎
江里子さんと美穂さんがリレー形式で送るエッセイ集。六畳一間・ふたり暮らし中に書かれたもので、その良さと苦労が、面白おかしく伝わってきます。「老後は女友達と同居して助け合うのもいいかな?」などと考えている人は、参考になるエピソードがいっぱいあるので是非読んでみて。また本書には、二人が初めて手がけた短篇小説も収録されています。
取材・文/山本奈緒子
構成/柳田啓輔(編集部)
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