久しぶりに書店で表紙を見てビビビッときました。と、ほぼ時同じくして、この手(どの手?)の趣味が強烈に合う知人から「これ、気になる!」と表紙のキャプチャー画像が送られてきました。

俳優の高嶋政宏さんによるエッセイ本です。

スーツ姿で撮影する予定が、「裸に首輪ひとつだけつけているほうが面白くないか? 変態っぽさが増して、より引かれるんじゃないですか?」と急遽採用。首輪は、自身が通われている緊縛初級講座の師匠にお借りしたものだとか。もう、本当に、「どうした高嶋兄⁉」な表紙です。「変態紳士」/ぶんか社 

高嶋さんは自身を「変態」と表現していますが、それは「その事象にとてつもなく深く惚れ込み、度が過ぎるほど真面目に向き合っている」姿勢をさしています。高嶋さんが自分を変態と呼ぶほどに求道しているのは、主にSM、ロック(とりわけプログレ)、グルメ(とりわけ駅弁)。

ロックとグルメは偏愛を他人に告白しやすく、共感をえやすいと思いますが……そう、なんといってもこの本の骨頂は「SM好き」を気持ちいいくらいに包み隠さずに公言したことにあると思います。「俳優さんがなぜここまで!」と驚くほどに、とにかく超個人的な性癖を晒けまくっています。その清々しいまでの潔さ、大らかさに感服しながら読み進めるうちに、あるメッセージにたどり着くのです。

「SNSの発達で、人の目を極度に気にして生きている人たちが増えている気がします。等身大の自分以上の“イケてる俺”“素敵な私”を誇示するなんてくだらないと思いませんか? ~中略~ そんなことに執念を燃やすより、自分のしゃべりたいことを一生懸命喋っていたほうが、モテないかもしれないけど、だれか“同志”が見つかるのにって思うんですよ」(本文より)

そして、何より大切なのは、

「僕が大好きな“変態道”は相手のフェチをわかろうとしない、相手にわからせようとしない、馬鹿にしない、自分のフェチを押しつけない、これが基本なんです」(本文より)

こんな風に考えられたら、なんだかもう「無敵!」ではないでしょうか。社会やまわりの環境に配慮し、協調して、秩序を保つことはもちろん人間社会において大切なことですが、それを意に介さず自分らしくふるまえる“とっておきの場所(関係)”をつくることはそれ以上に大切。空気を読むことに疲弊している現代を健やかに乗り切るためのサバイバルテクニックであるとすら思うのです。

20代のとき、私は新宿の歌舞伎町にあるロフトプラスワンという“トーク”ライブハウスに通っていたことがありました。扱われていたテーマは、驚くほどにニッチ(≒サブカル)でした。そのニッチなもの、フェティッシュなものをトークで掘り下げまくる作家さんや漫画家さん、ライターさん……そして何よりお客さんたちそれぞれから放たれる“偏愛熱”の渦の中に身を置くのが本当に心地良かった。極めてニッチなネタに対し、同じように笑ったり、興奮したりしたりする人の中に身を置くことで、「(自分のすぐまわりにはいなかったけれど)同志はこんなにたくさんいたんだなぁ」と励まされたことは数えきれません。

「東京ってすごい!」。キラキラと光るイルミネーションの中を歩いたり、都心の夜景を見下ろしたり、流行のレストランに足を運ぶことより、私はその時ほど人口密集地、大都会・東京の偉大さをかみしめ、懐の深さに身震いするほど感動したことはない気がします。

「自分は自分、ヒトはヒト」と割り切って「自分の好き」を空気を読まずに開示する。それにより出会うことができた同志は、お金よりもっともっと素晴らしい自分の資産である。やっぱり、私はそう信じたい!

プライドを捨てて変態をさらしたあの日から大切な人たちに愛されはじめた。(帯より)

ちなみに、本書には、変態になるほどにのめりこむものを見つけるための方法も記されていますが、私も完全に同意。自分を熱くさせるものに出合えないと思っている方は、ぜひ本書を手にとってお確かめください!

今日のお品書き
鎌倉で暮らす作家 甘糟りり子さんが通う「ハウス オブ フレーバーズ」。チーズケーキをお取り寄せして、その美味しさに大感動! すぐに店舗に出向きましたっけ(笑)。甘糟さんおすすめのマロンシャンテリーも食べてみたいな~。