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20年来の友人が使っているのは、「ロリエ」か「エリス」か「センターイン」か。はたまた布ナプキンかタンポンか……。

アケスケすぎてスケスケになってるような下品な話はするのに、なぜか月経、すなわち生理の話は親しい友人ともほとんどしたことがない。むしろそのへんの話は友人より、パートナーとの方が共有している。

学生時代、仲良しの女の子に「生理、重い方?」と何気なく聞いたらとても複雑な表情をされたことがあった。「この手の話はダメだったか。ヤッチマッタ」と心の中でメモを取り、それ以来、彼女の前ではおシモの話全般を控えるようになった。生理の話を人前でしたくない女性も多いものだ。

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いまだに生理が“穢れ”として扱われているインドでは、生理中の女性は家の中に入れない(震えながら外で寝る!)。さらにナプキンは高価すぎて一般的ではないため、陰干しした布を何度も使い回すという不衛生な環境によって、病気や不妊に陥る女性が後を絶たないという。そんな状況に憤慨したひとりの愛妻家が、妻のために自作できる安価なナプキンを開発した―。この実話を映画化したのが、『パッドマン 5億人の女性を救った男』である。報道などで実際の“パッドマン”、アルナーチャラム・ムルガナンダム氏を知っている方も多いかもしれない。

 

男性が生理について語り、なおかつナプキンを作るなんてインドでは前代未聞。そのため、パッドマンは全編にわたってほぼ狂人扱い。特に妻の怒りは凄まじく、「後生だからやめてくれ。恥ずかしくて死んでしまう」と涙ながらに何度も懇願していた。生理に関する知識の乏しさと悪しき慣習により、同じ2000年代に生きる女性とは思えぬほど、インド女性たちは無自覚に、自分で自分の首を締め続けていた。

翻って我が国ニッポンは「生理休暇(PMS休暇)」を採用している企業もあったりなんかして、“女性への配慮してます感”はある。でも、制度を取り入れている某有名下着メーカーや某有名デパートの女性社員に話を聞くと、「そんなものを使っている人は見たことがない」ときっぱり。生理休暇を取ったら白い目で見られることは必至で、その白い目は、同性である女性の視線だとも話していた。日本でも、女が女を追い込んでいるのは変わらないのかもしれない。


 ……と『パッドマン』を観てつらつらそんなことを考えていたとき、ふと私の頭に浮かんだのは、かつてお付き合いしていた彼の部屋に行った時の“ある行動”だった。それは、トイレで使用済みのナプキンを袖の中に隠し、部屋に戻ると目にも留まらぬ速さでカバンの奥底に突っ込んで隠していたことである(そしてしばしばそれを忘れ、数日過ごしていた)。

私だけでなく、きっと多くの女性たちが他人の家のサニタリーボックスを使うことを憚り、上着の内ポケットやトートバッグの奥底に使用済みのアレを密かに入れて持ち帰っていると思う(男性ひとり暮らしの場合、ほぼサニタリーボックスはないと推察)。私は20年、そうしてやってきた。私の生理を、他人の家で憚りまくってきた。

かといって、素知らぬ顔してポトンと置いていくのはやっぱり忍びない。だからこれからはポッケの中の使用済みナプキンを捨てていくかわりに、とりあえず、「今日、生理でさ」と打ち明けてみようと思う。「で?」となったら、「おすすめのナプキン」を聞きたい。正直、みんなの生理事情が気になって仕方ないのだ。そうして使用済みナプキン問題についても口火を切ろうと思う。男性には、「汚物入れ、ないの?」と聞いてみたい(もしサニタリーボックスを設置しているひとり暮らしの男性と出会ったら、それはそれで「なんで気づいたかね?」と聞きたい)。

ただでさえ「ジメ~」「ムシ~」としているものだから、せめてあっけらかんと語って、クリーンにしておきたいのだ。ささやかな私なりの、生理=日陰者からの解放宣言。『パッドマン』には、そんなことを決意させてしまう強力な力があると思う。

<映画紹介>
『パッドマン 5億人の女性を救った男』

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配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 12月7日(金)TOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

インドの小さな村で新婚生活を送る主人公の男ラクシュミは、貧しくて生理用ナプキンが買えない最愛の妻を救うため、清潔で安価なナプキンを手作りすることを思いつく。研究とリサーチに日々明け暮れるラクシュミの行動は、数々の誤解や困難に直面し、ついには村を離れるまでの事態に…。それでも諦めることのなかったラクシュミは、彼の熱意に賛同した女性パリーとの出会いと協力もあり、ついに低コストでナプキンを大量生産できる機械を発明する。農村の女性たちにナプキンだけでなく、製造機を使ってナプキンを作る仕事の機会をも与えようと奮闘する最中、彼の運命を大きく変える出来事が訪れる――。

 

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。18年に大腸がん発見&共存中。

 

構成・文/小泉なつみ

 

著者一覧
 
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

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ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

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メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

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ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

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ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

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ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。18年に大腸がん発見&共存中。