“女性をはじめとする多様な人々が活躍する豊かな社会”を目指すイベント「MASHING UP」が、11月29日、30日の2日間にわたり開催されました。Bravery(勇気)& Empathy(共感)をテーマに行われた多彩なセッションから厳選して、その内容をレポートします。

『NEUT Magazine』編集長の平山潤さん、東京大学准教授の星加良司さん、黒鳥社の若林恵さんで行われたセッションのテーマは『アンコンシャス・バイアスを考える』。ダイバーシティ実現を妨げるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)をなくすには、一人ひとりがどう行動すべきかを考えました。さらにミモレでは、星加さんに個別インタビューを敢行。ダイバーシティにおける障害者の意外な立ち位置、ムーブメント化によって生まれる新たな危険性への指摘は必読です。

 


偏見を助長させてしまう“無自覚”の怖さ


「○○に対して自分はこう思っている」と本人が自覚しているのがコンシャス・バイアス。対してアンコンシャス・バイアスは、そう思っていると本人が気付いておらず、しかし行動レベルで表出してしまう先入観や偏見をいいます。星加さんいわく、真のダイバーシティ実現には表立ったバイアスをなくすだけでは意味がなく、これらの潜在的な部分にこそ働きかけることが重要なのだとか。

「アンコンシャス・バイアスは、まず本人にきちんと自覚させることが大事。なぜなら『あなたはこういった偏見を持っている』と知らせた場合と知らせない場合で、その後の行動に違いが出るんです。知らせれば、その偏見をなくそうと意識変革が起きる。しかし『あなたは偏見を持っていません』と知らせないでおくと、そこで安心するのか、潜在的だった偏見がより行動に顕れてしまうそうなんです。

 

また、減らし方にも工夫が必要。自分の中の偏見に気付いたことで意識変革が起きた時、その動機が『偏見はよくない、なくそう』という自発的なものなら偏見は減るんですが、『偏見は悪いとされているから』といった外発的な動機だと、むしろ潜在的偏見が強化されてしまい、逆効果になることがあるそうです。人はよく、自分で決めたことなら進んで行動できるのに、人から言われると反発してしまう、ということがありますよね。あくまで仮説ですが、これにはそういった心理メカニズムが働いているんじゃないかともいわれています」(星加さん)


無限にあるバイアスとの上手な付き合い方とは?


平山さんは今回のセッションのために、“自分の中にあるアンコンシャス・バイアス”を探してきたそう。ただ潜在的ということはつまり言語化されていないため、自分で気付くのはかなり難しかったとか。

 

「例えば知り合ってすぐの相手に『彼女いるの?』とか、今の時期なら『年末は実家帰るの?』といった、日本ならではのテンプレ化されたコミュニケーションってありますよね。でもこれには“彼は男性だから女性が好き”“お正月は家族で過ごすもの”という無意識のジャッジがなされている。彼はバイセクシャルかもしれないし、親とは仲良くないかもしれないのに。とはいえ、意識し過ぎて『パートナーいるの?』って言い方だけ変えても、それはそれでどうなのって感じですけどね……(笑)。お決まりの挨拶にも実はバイアスが含まれていて、無意識に言ってしまっている人は意外に多いと思いますね」(平山さん)

「コンシャスであれアンコンシャスであれ、すべてのバイアスがなくなることはないんです。コミュニケーション上で相手のすべての要素を考慮するなんてことは不可能ですし、私たちは一定の先入観のもとにしか話せないのでバイアスは必ず存在します。これ自体は仕方のないこと。ただある種のバイアスについては、それによって傷つく人もいるし、また1度くらいならまだしも、何度も繰り返されることで大きなストレスになる、ということです。だからそれに気付いた時点で、次からはなるべくニュートラルな表現に変えていく。それしかないのではないでしょうか」(星加さん)


なくすのではなく、ポジティブに変えるということ


いつでもバイアスは存在する。これはコミュニケーションの中だけではありません。そのなかでこれから私たちが目指すべきは、心のバリアフリーや他者への配慮、だけなのでしょうか。

 

「そもそも文化って、バイアスの体系ですよね。言語でいえば、何か一つを名付ければ、そこからほかの何かが排除されてしまう、というように。それこそフランス語なんて男性名詞と女性名詞に分かれちゃってますからね、今このご時世でどうなんだって気もしますが(笑)。こういった構造的バイアスは世の中いくらでもあるわけで、それなのに『とにかくバイアスはなくしましょう』というのでは現実味がない。むしろ“望ましいバイアス”とはなんなのかを考える方向に、今後は向かっていく気がするんですよね」(若林さん)

「とくにメディアや教育は、ある種の価値をメッセージとして発信したり、特定の見方を浸透させる、といった要素を潜在的に含んでいる。どんなやり方をしてもある種のバイアスを内包してしまうんです。ただひと言にバイアスといっても、ネガティブな方向に進んで偏見になることもあれば、ポジティブな方向に行く場合もある。その中で、ではどういったバイアスを作っていくかということは、私たちのように体系的な働きかけをしている側は常に意識しなければいけませんね」(星加さん)


写真/塩谷哲平
文/山崎恵
構成/柳田啓輔