宮藤官九郎節にワクワクが止まらない5つの理由【いだてん 第一回】_img0
雨の中、顔を真っ赤に染めてゴールに向かう金栗四三(中村勘九郎)。
第一回 「夜明け前」 演出:井上 剛
あらすじ  
明治42年、柔道の創始者・嘉納治五郎は、フランス大使から三年後のストックホルム・オリンピックに日本も参加するように言われる。それには世界に通用する選手を見つけないといけない。嘉納は「大日本体育協会」を設立し大運動会を催す。オリンピックの花となるマラソン選手“韋駄天”を発掘すべく始まったマラソン大会。雨の中、ゴールを切ったのは顔を真っ赤に染めた金栗四三だった。


「夜明け前」とは何か


フィギュアスケートに例えると、技術点も演技構成点も満点。
朝ドラに新しい視聴者を呼び込んだといわれる『あまちゃん』(13年)のスタッフ(脚本:宮藤官九郎、演出:井上剛、音楽:大友良英、制作統括:訓覇圭)が再結集して作った大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』はあまりにも出来が良くて、新年早々わくわくが止まらない。

まず、サブタイトルが「夜明け前」というところが粋だ。
「夜明け前」とは島崎藤村の代表作のひとつ。御一新があって江戸から明治へと変わった時代を生きる主人公の物語は、ちょうど大河の前作『西郷どん』とつながっている。
徳川幕府が終わった新たな時代、日本人の夜は明けたのかーー。『いだてん』は、あたかもひとつの夜明けを目指すかのように、1912年(明治45年)のストックホルム・オリンピックではじめてオリンピックに参加した日本人・金栗四三(中村勘九郎)と、1964年(昭和39年)、日本ではじめてオリンピックを招致した田畑政治(阿部サダヲ)のふたりを主人公として描く。

この間50年ほどを、その時代に生きた古今亭志ん生(ビートたけし、若き日の志ん生は森山未來)が落語『東京オリムピック噺—はなしー』として紡ぐ。実在する人の話でありながら、架空の落語が登場するところが面白い。
オリンピックのみならず、落語にかなり力が入っていることがわかるのが、第一話のサゲ(落語でオチに当たる専門用語)だった。
一話は、昭和と明治を行ったり来たりしながらこれから1年間の物語の概要と主な登場人物を一気にお披露目する怒涛の展開(後半の主役・阿部サダヲをはじめとして、2018年紅白の視聴率男・星野源〈ジャーナリスト平沢役〉、「孤独のグルメ」の松重豊〈東京都知事・東役〉、映画『日本の一番長い日』と並ぶ昭和感の出た松坂桃李〈日本オリンピック委員会常任委員・岩田役〉なども早くも登場した)の末、ものすごく鮮やかにサゲが決まって破顔一笑。この流れがじつに美しかった。

宮藤官九郎脚本といえば、随所にギャグや小ネタが散りばめられているという印象があるが、このサゲのためにそれ以外を抑えていたのではないだろうか。
もちろん最初から最後まで笑えるところもたくさんあった。それが登場人物の人間的な魅力によって思わず笑ってしまうというところに重きが置かれていたとも感じられ、そこがまた落語的なのだ。