さて、ここで私の経営上の失敗を、専門家である三戸政和さんの分析する「三つの共通点」にひとつずつ照らし合わせてみよう。
(1)プロダクトアウトの罠
顧客が何を望んでいるかでなく、「自分が何をやりたいか」しか考えない……これがプロダクトアウトの発想だ。(三戸さんの提示する「三つの共通点」より。以下同)
なるほど! 確かに私の場合もこれが失敗のはじまりだったのかもしれない。
高原のドッグカフェ。その発想自体は悪くない。だが、少々時代が早すぎた。店をオープンさせた2004年当時、犬連れで旅する人たちの数は、まだ私が思ったほど多くはなかったのだ。
もちろん、ウチの店は、犬を連れていない人でも普通に入れるカフェだった。しかし「八ヶ岳わんこ物語」という店名で「犬」を全面に押し出しすぎたため、一般のお客さんの入店を取りこぼしていた傾向がある。中には「わんこ蕎麦屋」と間違えていた人もいるくらいだ。
もうひとつ、私は、店の2階の1室を、自分の著作やお気に入りの本、カラー原画などを飾るギャラリーにしていた。せっかく漫画家が経営する店なのだから、他の店にはない個性と付加価値を持たせたいと思ったのだ。
確かに、私の読者の方たちは喜んでくれた。わざわざ遠方からやって来てくれる方も少なくなかったし、ギャラリーのソファに座って、何時間も本を読み耽ってくれる方もいた。
けれど、私の読者層はほとんどが若い女性だ。車がなければ不便な八ヶ岳。東京から電車で2時間以上。最寄駅からはバスもなく、タクシーを使えば5000円はかかるという不便な場所に、そうそう来られるわけがない。
まったく顧客のことを考えていない独りよがりな店。
まさに、私の店は「プロダクトアウトの罠」にはまってしまっていたのだ。
(2)投資回収の罠
内装や設備などにお金をかけ、初期投資で手持ちの資金を圧迫するという「罠」
参照する記事の試算によると、よくある飲食店のケースとして、開店資金は、店舗の保証金や礼金、仲介手数料、内装や家具、厨房機器などの設置と広告費などで、およそ1000万円くらいになる。
ドンピシャ! 私の店の開店時の初期投資費用も、大体1000万円ほどだった。
実は、初期費用にこんなに資金をつぎこんでしまった時点で、内心「ヤバい」と思っていた。ほんの思いつきの趣味程度のつもりだったのに、これはなんだか大ごとになってきた…。
この頃になって、やっと「素人に店なんかできるのか?」という不安が胸を過ったが、内装やらインテリアやら設備費に1000万も投資してしまった以上、もう後には引けなかった。
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