「これから」の社会がどうなっていくのか、100年時代を生き抜く私たちは、どう向き合っていくのか。思考の羅針盤ともなる「教養」を、講談社のウェブメディア 現代ビジネスの記事から毎回ピックアップしていきます。
全3回でお届けしている漫画家・折原みとさんのカフェ経営失敗談、第2回は、人を雇うことの難しさについて。無断欠勤、仕事へのモチベーションの低下……数々の試練から学んだ、経営者と従業員のあるべき関係性とは。
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かつて、八ヶ岳の高原でドッグカフェを経営し、4年半で閉店した自分自身の体験を記事にしたところ、予想以上の反響をいただいた。
飲食店経営に興味をもつみなさんに、甘くない現実を知っていただけたようで嬉しい。前回は、主に資金面で採算を取ることの難しさを書いたが、実は飲食店経営の「地獄」はそれだけではない。私がカフェ経営から手を引いたのには、他にもいくつかの理由があった。
今回はそのうちの一つ「雇用問題」の地獄について書かせていただきたいと思う。
素人しかいない状態でのオープン
「人を雇うことの難しさ」
これは、飲食店に限らず、事業を営む方ならみなさん頭を悩ませたことのある問題ではないだろうか?
良い人材を確保することは難しい。そして、人を使うことは、もっと難しい。
2004年のGWにオープンした当初、私の店、「八ヶ岳わんこ物語」は、近所の別荘地に住む友人たちだけで営業する素人集団の店だった。「食品衛生責任者」の資格を持っている友人に責任者をお願いしたが、オーナーの私は本業漫画家のド素人。助っ人の友人たちも、せいぜい喫茶店でバイトをした経験がある程度だ。
それでよく店をオープンさせたものだと、今更ながら自分の無鉄砲さが怖くなる。
それでいて、メニューはドリンク類とケーキ、パフェの他に、カレー、ハンバーグセット、日替わりパスタ。その上夜はピザや簡単なおつまみまで出していたのだから無謀だ。コスト的にも調理の手間や効率の面でも、もっとメニューを絞るべきだったのだが、前回の記事にも書いたように、そこが素人の浅はかさ。「自分のやりたいこと」だけを考えて、状況判断ができていない。
オープン当初は、私も自らカフェエプロンをつけてウキウキ接客し、料理を作ったりレジを叩くこともあった。オープンからしばらくの間は、主に近所の友人たちがランチやお茶に来てくれるだけで一般のお客さんは少なかったので、素人スタッフだけでもなんとかなっていたのだ。
仕事の合間に神奈川県の自宅と八ヶ岳を行き来し、愛犬のゴールデンレトリバー、リキ丸と一緒に店に出る。静かな高原のカフェに流れる、まったりと心地いい時間。思えば、その頃が一番楽しい時期だったかもしれない。
しかし、夏になると一般の観光客の方たちも来店してくれるようになって、急に忙しくなってきた。さすがに素人スタッフだけでは手が回らなくなって求人を出した所、颯爽と現れた人がいる。
以前、近くのレストランで働いていたKくんという20代の男性が、ウチの店で働きたいと言ってきてくれたのだ。
Kくんは、料理も接客も経理もできるオールマイティな経験者。夏場の混雑でパニクっていた素人集団にとって、彼は救いの神のように思えた。
すごい!さすが!頼りになる〜〜!!と大絶賛。
初めての夏が終わる頃には、Kくんと正式な雇用契約を交わし、マスターになってもらうことになった。
安心して業務を任せられる人ができて、これで店も軌道に乗るものと、私は大船に乗ったつもりでいたのだった。
ただし、最初のうちは……だ。
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