「夢」が「地獄」に変わらないために
こうして改めて振り返ってみると、呆れる程にダメダメな素人経営。潰れるのには、当然の理由があったわけだ。
こんな状態で4年半も持ちこたえたのは、私に作家という本業があり、本業の収入で赤字を補填することができていたからに他ならない。そうでなければ、おそらく1年も持たずにパンクしていただろう。
実際、うちの店のマスターをしてくれていた方が、数年後に近くでご自分の店を出したが、1年持たずに閉店してしまった。
結局、5年間の店舗の賃貸契約が切れるタイミングで閉店を決断したが、私がこの店につぎ込んだ資金は、開店時の初期投資と4年半の赤字の穴埋め分を合わせて、総額2000万円は下らない。もしも銀行から借り入れでもしていたら、本当に地獄を見ていたはずだ。
経営的には大失敗に終わった「八ヶ岳わんこ物語」。それでも私にとって、決して悪い思い出ではない。「人にもわんこにも優しい店」を目指したこの採算度外視の居心地のいいドッグカフェは、愛犬家の間でなかなかの人気になっていた。閉店が決まった時にはたくさんの方が泣いてくださった程に、犬好きさんたちにも読者の方たちにも愛していただけたお店でもあった。
メニューを考え、家具や食器を買いそろえ、内装やディスプレイをして、自分の好きな店を創り上げていく時の、あのワクワクした気持ちは忘れられない。自分の店で、楽しそうに寛いでくれているお客さんやわんこたちの姿を見ている時の、あの幸福感。それは、まさに至福の時間だった。
人生においても、作家としても、このカフェ経営の体験は無駄だったとは思わない。勉強にもなったし、得るものも多かった。ただし、授業料はかなり高くついたが……。
* * *
と、いうわけで。
素人が飲食店経営に手を出すことがどれほど危険なことか、具体的におわかりいただけただろうか?
それでも夢を叶えたい!という方に「しくじり先生」の私からアドバイスできることがあるとしたら、投資する資金を極力抑えることだ。店を経営していくために、一番大きな経費は家賃と人件費。だからそこを抑えれば何とかなるかもしれない。
理想を言えば、住居と店舗は一体だといい。わざわざ店舗を借りるのではなく、住居の一部を店舗として使うのだ。
スタッフは自分ひとりか、せいぜい家族まで。
メニューは固定ではなく、その日に安く手に入る食材や残り物を利用した「気まぐれメニュー」で食材の原価を抑える。
毎日営業することはない。例えば、土日だけ営業して平日は他の仕事をするなどすれば、経済的なリスクを減らせるだろう。
素人が店をやるのなら、最初から多額の投資をして賭けに出るのではなく、儲からなくても大丈夫という余裕と、いつでも止められるという逃げ道を用意しておくことが大切だと思う。
成功するか失敗するかは、やってみなくちゃわからない。
しかしあなたの「夢」が、あなたの人生を「地獄」に変えてしまわないように。
私の体験が、少しでも参考になれば幸いです。
ちなみに、参照記事の筆者である三戸政和さんは、「飲食店経営の素人が『地獄』に落ちないためのこんな方法、教えます」という記事も書かれている。こちらも是非参考にしていただきたい。
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