白血病をはじめとするがんは、早期発見すれば治すことができる病気ですが、一部のがんについては完治できないのも事実です。つまり病気の状況はケースバイケースということになります。

もし患者本人が詳しい病状を公表していて、完治の見込みがあり、本人もそれを目指してがんばりたいという状況であれば、「ガンバレ」「絶対に治るよ!」というのは最高の励まし言葉となるでしょう。しかし全員がそうとは限らず、周囲には公言していないものの、本人がおおよその余命を自覚しているケースもあります。このような患者の場合、「絶対に治る!」「がんは治る病気だから!」といった言葉を何度もかけられてしまうと、心の底から傷ついてしまいます。

一般的に、これらの言葉には「悪気はない」と言われますが、本当にそうでしょうか。

写真:ロイター/アフロ

もちろん、わざと傷付けるために発言する人はあまりいないと思いますが、心のどこかで「治らない病気という話題には関わりたくない」という考えが無意識に働いている可能性があります。こうした無意識的な心の動きが、結果的に「絶対に治るよ!」という話につながっている可能性があることを私たちはもっと自覚する必要があるでしょう。
ひどい場合には、患者本人が「余命はそう長くない」と言っているにもかかわらず、「そんな弱気でどうするの!」など、さらに傷をえぐるような発言をする人もいるようです。

女優の樹木希林さんは、2003年にがんで治療中であることを公表し、体調をコントロールしながら仕事を続け、2018年9月に亡くなりました。樹木さんはテレビ番組で、がんを告白するとともに「死を覚悟している」と発言しているのですが、司会者が無神経にも「がんは治る病気ですよ」と発言するという出来事がありました。
樹木さんといえどもそう簡単に事実を受け入れられたはずはなく、相当な葛藤があったはずです。しかし司会者の発言からは、こうした樹木さんに対する尊敬の念は、まったく感じられませんでした。

病気にかかってどう感じるのかは患者にしか分かりようがありませんし、その病気についてどう捉えるのかも患者次第です。

池江選手の場合、仮に病状が軽いものだったとしても、彼女はアスリートですから、自分の体が思うようにならないことのショックは、私たち一般人には想像もつかないレベルでしょう。

今、もっともつらい立場にいるのは池江選手自身ですから、池江選手の意思や価値観、治療方針を最大限尊重することが、本当の優しさだと筆者は考えます。

 
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