タレントの栗原類さんのADD(注意欠陥障害)や、SEKAI NO OWARIのボーカル・深瀬彗さんのADHD(注意欠如多動性障害)など、多くの有名人が自身の発達障害を公表し始めたこともあって、近年、その社会認知が急速に広まりつつあります。中でも注目を集めているのが、知的な障害を持たない自閉症とされる「アスペルガー問題」。児童青年期精神医学を専門とし、『発達障害の子どもだち』(講談社現代新書)の著書も刊行している杉山登志郎医師が、発達障害の最新知識と治療について分かりやすく解説してくれています。
「アスペルガー問題」とは?
高機能広汎性発達障害、つまり知的な障害を持たない自閉症グループをめぐる問題は、今日大きな議論をもたらしている。我々はこれを「アスペルガー問題」と呼んでいる。
自閉症には主に、次の三つの症状がある。
・ 社会性の障害
・ コミュニケーションの障害
・ 想像力の障害およびそれに基づく行動の障害。
今日国際的に用いられている診断基準によれば、アスペルガー症候群はこの三症状のうち、コミュニケーションの障害の部分が軽いグループである。言語の発達の遅れは少なく、知的に正常である者が多い。しかし自閉症と同じく社会性の障害を生まれつき持ち、また興味の著しい偏りやファンタジーへの没頭があり、時には儀式行為を持つ者もある。また非常に不器用な者が多いことも特徴の一つとされる。
高機能広汎性発達障害が予想以上に多いことは、1990年代になると様々な地域から報告がなされるようになった。2002年に行われた文部科学省による全国五カ所のスポット調査では、通常学級に在籍し、知的障害がなく著しいこだわりや対人関係の問題を持つ小中学生の割合は0.8%に上ることが報告された。また2006年の名古屋市における調査では、知的障害まで含めた広汎性発達障害は2.1%報告されたが、そのうち1.5%が高機能グループであった。この高機能グループの1〜2%という数字は、私の臨床的な実感にもっともよく当てはまる数値である。
また学校教師に尋ねると、どのクラスにも少なくとも一人は高機能広汎性発達障害が疑われる児童が在籍する、という返事が返ってくる。
これらの報告を総合する限り、診断基準の変化による増加だけで済まされないことは明らかであろう。
成長過程でどんな症状を見せるのか?
高機能広汎性発達障害の幼児期の行動は、自閉症と大きく変わりはない。視線の合いにくさ、分離不安の欠如(愛着のある人物や場所から離れることに不安を示さない)を示す子どもが多い。とくに強い愛着レベルに到達するのは著しく遅く、小学校年代後半にやっと成立するのが一般的である。
幼児教育の開始とともに、集団行動が著しく不得手であることが目立つようになる。保育士の支持に従わず、集団で動くことができず、自己の興味にのみ没頭する。著しく興味を示す対象は、数字、文字、標識、自動車の種類、電車の種類、時刻表、バス路線図、世界の天気予報、世界地図、国旗など、いわゆるカタログ的な知識が多い。言葉の遅れがなくとも、会話における双方向のやりとりは著しく不得手である者が多い。また過敏症を抱える者も多く、特定の音刺激(ハイピッチの音、擦過音、突発的な破裂音など)や接触を嫌うことがある。
保育園では集団行動の枠が比較的緩やかなため、大きなトラブルになることは少ない。しかし小学校に入学すると、集団行動がとれないことが大きな支障となる。教師の指示に従わず、興味のある授業のみに参加し、それ以外は参加しないという場合もある。また言葉は達者で難しい語彙を用いるが、表面的な使用が多く、比喩や冗談の理解が著しく困難である。文脈から理解することが困難で、人の気持ちを読むことや、人の気持ちに合わせて行動することができない。この集団行動の障害もあって、高機能広汎性発達障害の児童は激しいいじめの標的となることが多い。
学童期に至ると、多くの児童はファンタジーへの没頭を抱えるようになる。好きなアニメキャラクターであったり、ビデオの一場面であったりするが、一人で何役も演じ、ぶつぶつとひとり言を繰り返すこともある。このファンタジーへの没頭は通常、小学校高学年から中学生年齢まで続き、幻覚・妄想があるかのように誤診される場合もある。
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