いつからだろう、韓流ファンの枠を超えて、音楽、映画、文学好きが「Kカルチャー」の世界を語るようになったのは。各領域で質の高い作品を量産し、彼らは世界に語りはじめた。自分たちのこと、韓国社会のことを。
世界のライフスタイルを“旅”のフィルターで読み解くトラベルカルチャーマガジン『TRANSIT42 韓国・北朝鮮 近くて遠い国へ』では、そんなKカルチャーを取り上げました。その誌面の一部をご紹介。第一弾は「韓流ドラマ」、話題のネット配信ドラマも!
目の肥えた視聴者との緊張関係
テレビドラマをめぐる状況はドラスティックな変化の時を迎えている。ドラマ放送を一手に引き受けていた地上波放送局と有料チャンネルの力関係が逆転しつつあるのだ。韓国で全国ネットワークを行っている地上波放送局はKBS、MBC、SBSの3局。しかし、近年、ケーブルテレビやインターネット経由のIPテレビ、スマートフォンでドラマを楽しむ層が増加したため、地上波と有料チャンネルの違いはほぼ消滅し、「見たいドラマを見たい時に見る」視聴者が増えている。
そうした視聴環境の変化にうまく対応したのが、エンターテインメントに特化した有料チャンネル。地上波よりも表現規制が厳しくないという利点を生かし、大胆な暴力描写やエロティックなシーンなど、それまでドラマではできなかった表現を大胆に取り入れながら映画並みのクオリティの映像で目の肥えた視聴者をつかんだ。とくに大手エンターテインメント会社CJ ENM傘下のtvNは20代から40代とターゲットを絞り、『ミセン-未生-』(14)や『シグナル』(16)といった、社会性のあるテーマをエンターテインメント作品に溶け込ませたドラマを連発。視聴率が上がるにつれて広告収入や制作費も上昇し、人気俳優や経験豊富なスタッフたちが有料チャンネルに集中するという現象も起きている。
ジャンル&見どころ別・傑作韓流ドラマ6本
【①キャラクター】自閉症の天才青年が主人公
『グッド・ドクター』(2013)
コミュニケーションに難しさを抱えながらも、天才的な頭脳とひたむきな態度で医師として成長していく青年、というキャラクターのユニークさが注目され、日本やアメリカでもリメイク版がつくられた。
【②製作規模】総製作費43億円!?
『ミスター・サンシャイン』(2018)
ハリウッドでも活躍する俳優イ・ビョンホンと人気脚本家キム・ウンスクが組んだ歴史大作ドラマ。当初、地上波SBSでの放送が検討されていたが、製作費の交渉で折り合わずtvNへ。世界配信はNetflixが担当。
【③ストーリー】時空を超えて実在の事件を扱う
『シグナル』(2016)
過去と現在を生きる刑事たちが無線機を介して出会い、難事件の解決に挑む。映画『殺人の追憶』でも知られる連続殺人事件など、実際に起きた事件をモチーフとしたリアルな設定とファンタジーが絶妙にマッチ。
【④リメイク】人気アメリカドラマをいち早く
『SUITS』(2018)
『グッドワイフ~ 彼女の決断~』(16)、『クリミナル・マインド:KOREA』(17)など、アメリカの人気ドラマのリメイク作も続々登場。『SUITS/スーツ』は、日本でもおなじみのチャン・ドンゴンが主演。
【⑤歴史的テーマ】あの頃の韓国を振り返る
『応答せよ』シリーズ(2012~15)
「時代そのもの」をテーマにするという斬新さや「過去を振り返りながら、現在のヒロインの夫を推理する」という構成が話題に。『応答せよ~1997』『~1994』『恋のスケッチ~応答せよ1988~』と3作品がつくられた。
【⑥社会的テーマ】リアルな今をコメディに
『キム課長とソ理事 ~Bravo! Your Life~』(2017)
政治家や財閥など“力をもつ人びと”へのフラストレーションが充満していた時期に登場。ひょんなことからヒーローとなった詐欺師まがいの男が巨大権力と真っ向勝負していく姿に共感の声が集まった。
2006年に開局したtvNは、バラエティのスタッフが手がけた『応答せよ』シリーズによって韓国ドラマに新しい流れを生み出した。変化を求めつづける視聴者との緊張関係のなかでユニークな作品を生み出してきた韓国ドラマのつくり手たち。そのチャレンジ精神の行方を見守りたい。
<書籍紹介>
『TRANSIT(トランジット)42号 韓国・北朝鮮 近くて遠い国へ』
発行 euphoria factory / 発売 講談社 ¥1800(税別)
12月14日(金)発売 電子版も発売中!
TRANSIT42号では、地理的にも精神的にも日本と近く、ときに強く惹かれ合い、反発し合ってきたお隣の国、韓国・北朝鮮を特集しました。特集:コリアンフードの処方箋、現代韓国を知る手帖、韓国カルチャーの来た道(K-POP/ドラマ/映画/文学/ファッション etc)、ベールの中の北朝鮮(金一族/平壌の暮らし/外交/国の行方 etc)。小冊子:「OhBoy!特別編集ソウルガイド」「もし北朝鮮を旅するなら」など。
※『TRANSIT42 韓国・北朝鮮 近くて遠い国へ』より抜粋(文/佐藤 結)
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