Andersson Bell(アンダーソンベル)2018年秋冬コレクションより

このように、世界基準の視点で急速に飛躍している韓国のファッション業界。しかし、日本のようにコム デ ギャルソンや、この10年間で確固たる地位を築いたサカイといった世界が認めるブランドは存在しないのが実情である。それはおそらく、オリジナリティを0地点から生み出す概念が気薄で、長きにわたって習慣づいたコピーに対して抵抗がないゆえ。でも、パワーはある。「あの人がやってるからやらない」という避け方はせず、同じ方向を向き、一丸となってトレンドを嚙み砕き、強引にアレンジしていくスピード、クオリティは、日本以上。それは、たしかな事実なのだ。街に出れば洗練されたモダンでエッジィなウエアを小粋に着こなすたくさんのミレニアル世代たちの姿。原宿キッズのような子どもっぽく無軌道な派手さではなく、シックでモードな派手さである。

「着やすい」「シック」「着回せる」という利点よりも、エッジがあることに重きを置くセンスは、韓国人のDNA。オリジナリティの追求はまだまだ課題だが、トレンドの再解釈と、その強烈なプレゼンテーション力、攻めの姿勢をもって、今後新たなフェーズに突入するはずだ。今、韓国は“コピー大国”とは呼ぶことはできないレベルにまで達している。


韓国モード、3つの新たな潮流

【1】メジャーな視点の、アートへの接近

 
 

SNSを意識した、大衆的なアート性
韓国はファッションというフィルターを通して、万人に伝えるマインドが日本よりも強い印象がある。実際、ブランドが作るカタログは、保管したくなるようなアート性の高いものが多い。〈GENTLEMONSTER(ジェントルモンスター)〉はマーク・ボスウィックの作品を想起させるインスタレーション(上)を行ったり、ディオールといった数々のメゾンの広告や映画『君の名前で僕を呼んで』のスチールを撮影するアート志向の強いフォトグラファー、アレッシオ・ボルゾーニを起用(下)。オブジェのようなアイウエアを販売するなど、積極的にシーンに接近。ストアのギャラリー化など含め、それらは消費者のSNS発信に一役買っており、実のあるアート促進といえる。

【2】エッジの効いたクリーン/ ミニマリズム

コンサバティブではない、攻めのシンプリシティ
セリーヌやステラ マッカートニー的なミニマムスタイル。エッジィなフォルムやあえて相反するテイストを組み合わせるキャラ立ちクリーンが定番だ。〈pushBUTTON〉はミニマムなフォルムを土台にスポーツミックスやストリートへの接近を試み(写真左上・2019年春夏)、マンネリ化していたスタイルに新風を吹き込んだ。
新沙洞(シンサドン)・カロスキルのセレクトショップでも取り扱いがある〈LOW CLASSIC(ロークラシック)〉(写真右上・2018年春夏、と下2枚・同秋冬)は、モダンな配色やコンテンポラリーなテキスタイルを多用。

【3】ストリートのモダンな再解釈

 

モード志向の強いパーカが未来を創る
韓国人はスウェットパーカが好きな民族だ。日本では自己陶酔感覚でフードを被る層が多いが、韓国では天然的にフードを被る。そのくらいにフード文化が浸透している。〈AnderssonBell〉(写真左・2018年春夏)や〈ADERerror〉(写真中・2018年秋冬)はアイコニックなスウェットパーカから人気に火がついたといわれており、〈CHARM’S〉(写真右・2018年春夏)もランウェイで印象的なコラボパーカを披露した。ヴェトモンが巻き起こした、ハイエンドな解釈のストリートファッションを継承し、ストリートの象徴、スウェットパーカを繰り返しアップデートしてきた。その試みは、世界からみても斬新。ストリート感を加速させる、独自の流れである。

 

<書籍紹介>
『TRANSIT(トランジット)42号 韓国・北朝鮮 近くて遠い国へ』

発行 euphoria factory / 発売 講談社 ¥1800(税別) 
12月14日(金)発売 電子版も発売中!

TRANSIT42号では、地理的にも精神的にも日本と近く、ときに強く惹かれ合い、反発し合ってきたお隣の国、韓国・北朝鮮を特集しました。特集:コリアンフードの処方箋、現代韓国を知る手帖、韓国カルチャーの来た道(K-POP/ドラマ/映画/文学/ファッション etc)、ベールの中の北朝鮮(金一族/平壌の暮らし/外交/国の行方 etc)。小冊子:「OhBoy!特別編集ソウルガイド」「もし北朝鮮を旅するなら」など。


※『TRANSIT42 韓国・北朝鮮 近くて遠い国へ』より抜粋
(文/三谷 徹)
 
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