8

家具は一生ではなく“二生もの”を手に入れる

5

ヤコブセンの椅子にフィン・ユールのソファ、ポール・ヘニングセンの照明、アーティチョーク。デンマークにはデザインの優れた素晴らしい家具が数々あります。
デンマークという国は税金も高いですが、(ご存知のように)これらの家具も高い。椅子ひとつ、クッションひとつでもそれなりの値段がします。ですが、彼らはみな「よいデザインにはお金を払うべき」と言います。美しいものは人の心を豊かにし、毎日の生活の満足度を上げてくれると思っているからです。

北海道の旭川空港からほど近い、上川郡東神楽町に住む、家具デザイナーであり、椅子研究家でもある織田憲嗣さん(おだのりつぐ/世界有数の椅子コレクターで1300脚以上を所有。椅子や家具に関する著作もある方です)に伺った話がとても興味深いのでご紹介します。

 

こちらは織田家のリビングルームです。天井からのペンダントライトとスタンドライトは梁に沿った十字のラインを意識して配置されています。照明や家具をこうした軸線に基づいて配置すると、全体にハーモニーを生み出す効果があるそう。


「たとえば、ダイニングチェアを買いたいんですが、と相談されるんです。予算はいくら?と尋ねると、3万円くらい、と。それじゃ5倍の予算で考えましょう、と答えるんです。するとね、皆さん、きょとんとします。答えになってません、という顔です(笑)。

一脚15万円って、4人だったら60万円。大変なお金です。だからこそ、買うのに慎重になるし吟味もする。そして一度それを手にしたら、大事にするし手入れもする。そして、そういう親の考え方は子どもにも受け継がれる。子どもに譲ることもできますしね。とすると、その椅子は一生ものどころか、“二生もの”になります。年単位で割ったら、ファストな家具より安いんですよ(笑)」

 
 
 

織田家にはユーモラスで愛らしいオブジェがいたるところで彩を添えています。「美しいものを手にしたときの感動は、ファストなものにはありません。そして、一度、買ったものは長く愛用します。ものの寿命を全うさせてあげたいと思っています。皆さんね、断捨離っていいますけど、断捨離しないといけないようなものは、そもそも玄関をくぐらせません」


織田さんは、家具や北欧の骨董なども集めてらっしゃるのですが、それらは単なる観賞用ではなくて、実際にご自宅で使っているんです。もちろん名作の逸品ばかりなので、もう、お伺いするたびに家中をキョロキョロしています(笑)。

こうした美しい家具を日々使うことで、その価値を感じて、そこから日常が豊かになるんだと思います。日本人もデザインやブランドにお金をつかう国民ですが、衣食住の「衣」の部分に少し偏っているようにもみえます。デンマーク人のように「住」を大事にすると、人生の幸せ度が少し変わってくるかもしれません。

PROFILE 行正り香/ゆきまさりか

高校3年時にアメリカに留学し、カリフォルニア大学バークレー校を卒業。CMプロデューサーとして広告代理店で活躍後、料理家になる。ふたりの娘と夫の4人暮らし。『だれか来る日のメニュー』、『19時から作るごはん』『行正り香のインテリア』ほか著書多数。サントリーのハイボールやアメリカンビーフ協会などテレビや広告などの料理も手がける。2018年には子どもから大人まで英語の基礎が学べる「カラオケEnglish」をローンチする。

 

<新刊紹介>
『行正り香の家作り ヒュッゲなインテリア』

オールカラー128ページ 1600円(税抜)/講談社刊
ISBN 978-4-06-513068-1

“心地よくあたたかい空間や時間“という意味のデンマークならではの言葉、ヒュッゲをキーワードに家づくりと暮らし方をデンマーク親善大使(2017年 日本・デンマーク国交樹立150周年)の著者が提案します。


撮影/青砥茂樹
構成/山本忍(講談社)