ポルトガル代表のマラソン選手ラザロと。
第12回 「太陽がいっぱい」 演出:一木正恵
あらすじ
マラソン競技の日。金栗四三(中村勘九郎)は、体調の悪い大森兵蔵(竹野内豊)を連れて会場に向かう。いよいよスタート。最初は好調だった四三だが、暑さで四三の調子は狂っていく。


ストックホルムの場面に現れた意外な人物


今週の癒やしは、スヤ(綾瀬はるか)と子・四三(久野倫太郎)。
まずスヤが金栗家に縁起物の鯛をもってきて、ストックホルムに送ってほしいと言う、その天然ぶりが微笑ましかったです。送ったら2週間もかかる、腐ってしまうと困惑する四三の兄・実次(中村獅童)。余談ですが、先日、BS プレミアムでやっていた時代劇をつくる人々のドラマ「スローな武士にしてくれ」で大部屋俳優の哀愁を演じた中村獅童もよかったです。
やっと事情を理解したスヤは、みんなで鯛を食べて応援しようと腕を振るい、「自転車節」を歌って勝利を祈ります。
ストックホルムの時間に時計を合わせてずっと見守っている実次の気持ちも温かいエピソードでした。
子・四三は第二回に出てきた幼少期の四三。演技経験のない熊本地元の子供の素朴さが話題になりました。彼が、四三が走っているとき、幻のように現れて応援します。その笑顔に和みました。
倫太郎くんはストックホルムまで撮影に行ったそうです。初めての海外だったそうです。編集E女史はそれを聞いて「じーんとした」と言っていました。熊本で偶然、大河ドラマの子役の座を射止め、海外ロケにまで参加した久野倫太郎くんが今後どんな人生を送るか、気になりますね。

 


複数のエピソードが並走する面白さ


その頃、ストックホルムでは正装した四三が早い時間にホテルを出るも、道に迷い、具合の悪い大森を背負い(病弱だった父を思い出しながら)と、極めてよろしくないコンディションで会場入り。それでも、30度の暑さのなか、走る、走る、走る。
このマラソン競技の回は、シベリア鉄道での移動の回(9回「さらばシベリア鉄道」)以上に見せることが難しそう。本物の中継だったらドキュメンタリータッチでアナウンサーの実況で臨場感あり盛り上がりますが、ドラマでずっと走るシーンばかりだと困惑する視聴者もいるでしょう。「いだてん」では、レースの様子と、日本の様子(東京、熊本)、過去(四三の幼少時)の回想、昭和の志ん生(ビートたけし)の噺と何本ものエピソードを並走させていきます。
熊本では、スヤや実次たちが食べたり歌ったり、東京では、永井(杉本哲太)と可児(古舘寛治)たちが治五郎(役所広司)からの電報をじっと待ち、浅草では美濃部孝蔵(森山未來)が「富久」の練習をしながら人力車を走らせます。ストックホルムでは、民衆がお祭り騒ぎ的にやっぱり歌ったり踊ったりしているところもありました。市電も日本にもストックホルムにもあり、離れた場所のちょっとした共通点(主に生活描写)をつぶさに描きます。試合時のスタッフの動きも細かいです。脚本も演出も事前の取材を丹念に行ったうえ、スマートに描いていて、上品な知性を感じるのです。

そして、ドラマ開始29分過ぎた頃。足袋を介してコミュニケーションをとったラザロと並走します。彼もスタート前、かなりのプレッシャーを感じている様子が描かれていました。
ラザロを抜いてひとり走る四三。暑さがピークでへんな状態になり、ラザロが「ノーノー」と声をかけている姿を見たところで場面は切り替わり。結果がわかります。
四三は上位どころか、ゴールもしないまま行方不明に。
選手のほとんどが完走できない過酷なレースとはいえ、四三は、ゴールもしてない棄権もしてない。これはいったいどういうことか……。この謎がドラマの盛り上げに一役買います。
みんな必死で探すと……四三は日射病にかかりホテルで寝ていました。

 
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