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【蝙蝠文様】受け継がれるタルトタタン

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先日、母が「これ着ていいよ」と、縞にコウモリの刺繡の入った着物を出してくれました。

 

めちゃくちゃかっこいい!のでありがたく着させてもらうことに。コウモリってホラーやゴシックなイメージがあるかもしれませんが、じつはこれも吉祥文様なんです。

諸説ありますが、元々は中国から伝わってきたもの。中国語で「蝙蝠」と「変福」(福に変わること)の発音が似ていることから縁起が良いとされています。他にも「動物と鳥、二つの才能をもつから」「暗いところから明るいところへ出てくるから」と言う説も。ちょっと素敵に見えてきませんか、蝙蝠。

現在は西洋的な「不吉なイメージ」が広まったからか、襦袢地や羽織裏にこっそり忍ばせる方が多いよう。それもとってもお洒落ですが、この着物とともに文様の意味もしっかり受け継ぎ、伝えていきたいなと思っております。


話は変わって、感動的においしいもののお話を。

 

京都・岡崎の「ラ・ヴァチュール」さんのタルトタタン。とても有名なので存じ上げてはいたものの、つい先日初めていただきました。これがもう、ほんとうに説明できないくらい美味しかった…

焼き上がりを見せていただきました。なんと1ホールに20個のりんごを使うそう。カラメルのようになるまで煮詰められたりんごの焦色(こがれいろ)の美しいこと…

元々は先代店主がパリで出会った味を独学で作り上げたもの。あまりのおいしさに評判はフランスまで伝わり、現地でも表彰を受けたそうです。今は先代の孫娘の若林麻耶さんが受け継ぎ大切に守られています。

お店の雰囲気も、飾られた先代のお写真もとても素敵です。


この味わいを守り続けることは並大抵のことではないはず。お着物や刺繡の勉強のまだ入り口にいる私にとってはぐっと気が引き締まる味でもありました。自分を鼓舞するため(そして甘やかすため)にまた訪れたいと思います。

ラ・ヴァチュール
京都府京都市左京区聖護院円頓美町47-5
11時~18時、月曜定休

PROFILE 長艸 歩(ながくさ あゆむ)

1987年京都市生まれ。芸術大学にて絵画を学び、卒業後は京都の老舗日本茶メーカーで販売や広報として勤務。結婚、出産を機に夫の家業である「長艸繡巧房」にて伝統的な京都の刺繡「京繡(きょうぬい)」を学びはじめる。 現在は3歳と1歳の女の子を育てながら刺繡の技術の習得と、いままで触れる機会のなかったディープな京都文化の吸収に励んでいます。 Instagram(@sica.seka)でも刺繡や文様のことを発信しています。

 

<5月9日 刊行予定!>
『繡えども繡えども』

著者 長艸敏明
A24判 192ページ/ 講談社

長艸敏明氏は歩さんの義父。刺繡作家、京繡伝統工芸士である氏の作品集が出版されます。着物や帯のほか、季節ごとのしつらえや婚礼衣装などの祝い着、祭事の修復や復元まで京繡の第一人者である著者の“刺繡の力”を堪能できる100点を掲載。

構成/山本忍(講談社)