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展覧会の会場などで、画の横に書き込まれた文字を、「なんて読むんだろう」と思ったことはありませんか?
この読めそうで読めない日本語、明治時代までは子どもでも読んでいた字が、どうして普通の日本人に読めなくなってしまったのでしょう。
例えばよく見かけるお蕎麦屋さんのこんな看板。

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私たちは日常、なんとなく「きそば」と読んでお店に入っています。でも「そ」はどういう字でしょうか?
漢字の音を借りて、くずして生まれたのがひらがなです。この看板の「き」は「幾」、「そ」は「楚」、「は」は「者」という漢字の草書をくずしたものです。元の形が想像できますか? この元の漢字を「字母(じぼ)」と言いますが、実は同じ音でも別の字母からひらがなになったものもあります。「き」と読む字でも、「支」「起」「喜」「貴」などをくずした、それぞれ違う形の「き」と読む字があるのです。
このような私たちが使うひらがなと違うひらがなを、「変体仮名」と呼びます。明治時代後期に、ひとつの音にひとつのひらがなが決まるまで、子どもたちも数種類の「い」「ろ」「は」を読みこなしていたのです。

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展覧会などで見かける「和歌」「百人一首」などの美しい筆文字、浮世絵や春画の書き込み、床の間の掛け軸……。「読んでみたい!」と思った時には、まずこのくずし字とよく使う変体仮名を少しずつ覚えていくことが必要です。

・つながった文字を区切る
・まずは読める字から読む
・読めない字は筆路(筆の道筋)をなぞり書きしてたどる

『国芳も春画も読めるわかる はじめてのくずし字教室』の著者・角田恵理子先生が教える基本です。この本ではたとえば浮世絵の1枚、絵巻の1場面を取り上げて書き込みを一文字ずつ分解し、字母、途中の形を示して読めるように導いています。先生の書かれた文字を指でなぞれば、筆路をたどることができるのです。
簡単な字や楽しい文字絵から始めてくりかえしていくと、だんだん読める字が増えていく――というわけです。先生の書いた、字母から仮名に至る「途中の形」も、理解にとても役立ちます。

平安時代の絵巻「病草紙」。男は、歯がみなゆるくて固いものが食べられないらしい(なのに画ではご飯は大盛り)。「可美和留仁於与者須(かみわるにおよはす=噛み割ることができない)」という。この場面はナント国宝!

この絵巻には「肥満のおんな」や「尻穴がたくさんある男」も登場し、「身こえしゝあまりて行歩たやすからず」とか、「くそまるときあなごとにいでてわずらはし」と、悩み(?)を吐露しています。
本で学ぶ他に、各地のカルチャーセンターや市民講座でも、今「くずし字を読む」は人気の講座です。図書館などの入門講座では、キャンセル待ちが出るほどだと言います。
新元号「令和」の典拠となったことで話題の『万葉集』は、漢字の羅列で一見漢文に見えますが、歌の部分は漢字を表音文字として用いてつづられた日本文です。平安時代になると、『万葉集』も流麗なくずし字で書かれるようになります。

講座で、本で、くずし字を学んで、王朝の和歌や春画のささやきが読めるようになりませんか。

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『国芳も春画も読めるわかる はじめてのくずし字教室』著者・角田恵理子先生の「くずし字講座」。
池袋コミュニティ・カレッジ
すみだ学際協議会

など各地で開催されています。

4月はこんな展覧会でくずし字に会えます!
~5月12日(日)
へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで
府中市美術館

~5月26日(日)
女・おんな・オンナ~浮世絵にみる女のくらし
渋谷区立松涛美術館

~5月26日(日)
メアリー・エインズワース浮世絵コレクション
――初期浮世絵から北斎・広重まで
千葉市美術館

4月28日(日)~6月9日(日)
くもんの子ども浮世絵コレクション 遊べる浮世絵展
練馬区立美術館

4月13日(土)~5月26日(日)
挑む浮世絵 国芳から芳年へ
広島県立美術館


角田 恵理子(ツノダ エリコ)
東京都出身。東京教育大学(現・筑波大学)教育学部芸術学科書専攻卒業。書家・書道史家。游墨会主宰。書道及び書道史の専門書から入門書まで、企画・編集・執筆に携わる。著書に『茶掛を読む』(共編著・全四巻)、『茶掛の一行書』(共編著・全二巻)、『禅語の茶掛を読む辞典』(共編著)、『マンガ「日本」書の歴史』(共編著)、『入門 日本語のくずし字が読める本』『実践 日本語のくずし字が読める本』〈以上講談社刊〉など。「名筆の鑑賞と読み書き」「書道(古典の臨書と作品制作)」などのテーマで講師をつとめ、その教え方には定評がある。

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『国芳も春画も読めるわかる はじめてのくずし字教室』
著者 角田 恵理子 1500円(税別) 講談社


春画のささやき、妖怪のつぶやき……、ワクワクドキドキしながらくずし字を学ぶ。根津美術館所蔵の「百椿図」、東京国立博物館所蔵の「綸子歌模様小袖」から光悦書・宗達下絵の「鶴図下絵和歌巻」(京都国立博物館蔵)、そして「妖怪一年草(ばけものひととせぐさ)」や、江戸の子どもがままごと遊びに使った「世たい道具尽し」など、美しい、そして興味あるテキストでくずし字を学ぶ。

『国芳も春画も読めるわかる はじめてのくずし字教室』のほか、料理、美容・健康、ファッション情報など講談社くらしの本からの記事はこちらからも読むことができます。
講談社くらしの本はこちら>>

構成/生活文化編集チーム

出典元:https://kurashinohon.jp/1041.html