映画『かもめ食堂』『彼らが舟を編むときは、』などの名作を手がけたことで知られる映画監督・脚本家の荻上直子さん。初の書き下ろし小説『川っぺりムコリッタ』の刊行を記念して、写真家川内倫子さんとのトークショーが開催されました。共通点の多い二人が本音で語る「コマーシャルと作品違い」、「儚さと死生観」などをたっぷりとお届けした前編に続き、後編では参加者の方からの質問コーナーをレポートします!
映画監督・脚本家 荻上直子(おぎがみ なおこ)
1972年2月15日生まれ。千葉県出身。映画監督、脚本家。2001年に自主製作した映画『星ノくん・夢ノくん』がぴあフィルムフェスティバルで音楽賞を受賞。2006年に、小林聡美主演で製作した『かもめ食堂』が大ヒット。新藤兼人賞銀賞、天草映画祭 風の賞など多数の賞を受賞する。他に、ベルリン国際映画祭マンフレート・ザルツゲーバー賞などを受賞した『めがね』、文化庁芸術選奨新人賞を受賞した『トイレット』、ベルリン国際映画祭テディ審査員賞、観客賞を受賞した『彼らが本気で編むときは、』などがある。
写真家 川内倫子(かわうち りんこ)
1972年、滋賀県生まれ。2002年『うたたね』『花火』で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。個展・グループ展は国内外で多数。近作に写真集『Halo』、写真絵本『はじまりのひ』がある。8月16日〜26日までホテルアンテルーム京都、9月11日〜10月20日までアニエスベー ギャラリー ブティックにて写真展を開催。8月10日〜11月4日まで東京都写真美術館での「TOPコレクション イメージを読む」に参加。
Q.今回初めて小説を書かれたということなんですが、映像作品と小説の違いは何ですか?
荻上 今回の小説は、映画を撮らせてもらえない怒りのパワーから、ガーッと2週間ぐらいで書いたんですけど、実はそれを編集者に見せたら「これは小説ではありません。脚本に脚が生えたようなものですね」と言われてしまったんですね。
川内 え、そうなんですか?
荻上 文章に細かい赤字が入るというレベルじゃなくて、「とにかくディテールが足りない、もっと描写を足してください」と大まかな指示だけなんです。で、言われたようにやったら、また新たに違う課題が赤で書かれて戻ってきて、直す。そのやり取りを何回もやっていったら、そのうち文章に赤が入っていくようになって、「ちょっとマシになったな」と。
川内 ブロックごととかじゃなくて「全体として違う」という赤だった、ということですか?
荻上 そうですそうです。やっぱりここまで人物描写を深く掘り下げるというのは小説ならでは。映画だと説明しなくても絵だけで伝えられることを、小説だと全部描写しなければいけない。映画だとあんまり説明し過ぎるとカッコ悪いというのがあったので、圧倒的に言葉足らずだったんです。
荻上直子監督初の書き下ろし小説『川っぺりムコリッタ』荻上直子著(講談社刊)¥1500
川内 分かります。写真集の編集で一番悩むのが、「これ分かりやすすぎるかな」というのと、「分かりにく過ぎても」というさじ加減。見る人に読み取ってもらえるよう合間の行間を開けつつ、私の目線も編集によって見せていく、ということを写真集で表しているつもりですが、難しいんですよね。
荻上 そこは映画になると、優秀な編集さんがいて。こんなことを言うと何なんですけど、最後の編集の段階に行くまでに2年近くかかっているから、実を言うと編集のときって私は意外と飽きちゃってるんです。もちろん編集の方に「こうしてほしい」とか意見は言うんですけど、頭の中では次の企画を考えていたりします(笑)。
川内 そうなんですね! 最初の脚本を書く段階のほうが苦しそうなのに、一番好きな過程なんですね? それが意外でした。
荻上 苦しいですけど、降りてきた瞬間はやっぱりたまらないですね。
Q.設定が決まると、どういうふうに書いていかれるんですか? 荻上さんの書き方の決まり、みたいなところを教えてください。
荻上 私の場合は、オープニングとエンディングが決まるとすぐ書き始めるんですね。その間に何が起こるかは自分でも分かっていなくて、書き始めるとお話ができてくる感じなんです。映画とかテレビドラマだとプロットというのを先に書かなきゃいけないんですね。プロットというのは、あらすじよりもう少し詳しい感じのものなんですけど、それを書いてしまうと私の場合はつまんなくなっちゃうんです。それに乗っ取って書かなきゃいけなくなるので、自分で自分を縛ってしまう感じになって。だからもうちょっと自由に、最初と最後だけ決めてフラフラ泳いでいる、みたいな感じで書いてますね。
川内 なるほど。
荻上 そのほうが楽しくなる。川内さんは写真集を作るとき、テーマみたいなものを決めていたりするんですか?
川内 全然そういうのはなくて、「何かあれ撮ってみたいな」とか「気になるな」という場所に行ったりして撮影して、「いいものが撮れたな」ってなると徐々に始まっていく、という感じです。
荻上 最初に決めているわけではないんですね。
川内 そうそう、何でもいいから気になったものをまず撮ってみる。で、「何で撮ったんだろう?」ということを考えてみる。たとえば野焼きの写真などは、ずっとなぜか“野焼き”が気になっていて。そんな折、夢に草原みたいな光景が出てきて、「どこだろう、綺麗だったなあ」と思っていたら、半年後くらいに夢で見たのと全く同じ景色がテレビで写ったんですよ。それは阿蘇だったんですけど、「実際に夢の景色があったんだ」と阿蘇をネット検索したら、「野焼き」ってキーワードが出てきたんです。動き出すとそういう偶然が重なってくるんですよね。
荻上 私は、アイディアがバーッと降りてくるときが面白くて、毎回撮影現場は嫌いなのにやってる、というのもあります。
川内 アイディアはどういうときに降りてくるんですか?
荻上 だいたいファミレスやカフェで、テニス帰りの主婦たちがディーン・フジオカについて2時間ぐらい話している隣で、アイディアが降りてくるのを待つ、みたいな感じです(笑)。あと、でき上がったものを見ると、必ず毎回同じところで「ここをこうすれば良かった」と後悔するんですよ。「次は完璧にしたい」っていう気持ちで、ずっと続けているのかもしれません。
川内 私もいつも未完の完、みたいな感じで終わるところはありますね。
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