「ゆらぎ世代」向けサプリのCMに感じる男性への啓蒙


50代にもなれば、白髪やシミやシワといった老化現象には、すでに慣れています。それらが多少増えたからといって、「まぁ、そうなるよね」と、泰然と受け止めるだけの度量はある。

しかし50代になって「おっ」と思うのは、やはりアラウンド閉経の時期でしょう。40年にわたって付き合ってきた、生理。そのリズムが、芯がなくなる直前の蝋燭の炎のように波打ち、途切れ途切れになり、やがて消えてゆく。同時に、様々な体調の変化が起こったりもする。否が応でも、人生の新しいステージに入ったことを理解することになります。

更年期症状は、人によって重度だったり軽度だったり、また現れ方も様々だとのこと。ホットフラッシュや不定愁訴が代表的な症状ですが、それ以外にも様々な不調が、更年期と結びつくようです。

大人向けの女性誌では、更年期世代のことを「ゆらぎ世代」と表現しています。確かに我々の体調は日々ゆらいでいるのであり、常にどこかが痛いとか痒いとか、様々な問題が勃発。私も日々、「一難去って、また一難」と、心の中でつぶやいております。友人の誕生日のメッセージには、必ずと言っていいほど、
「ハッピーバースデー! 健康第一でいきましょう」
 などと、健康を祈ったり寿いだりする文言が入るようになりました。

友人が額からタラーっと汗を流して暑そうにしているのを初めて見た時は、「これが更年期……」と驚いたものです。が、そんなシーンにも次第に慣れてきました。

受け止められる老化、受け止められない老化【朽ちゆく肉体、追いつかぬ気分・前編】_img0
 

「ゆらぎ世代」向けサプリメントのコマーシャルでは、その世代の女優さんが汗だくになっている姿が映っていました。彼女がカーディガンを脱ごうとすると、優しく手伝ってあげる夫。
そこでは妻が、
「あ、暑いなって思うとね、落ち着かなくなって、ますます暑くなってくみたい。年かな?」
と言うのでした。その言葉に対して、
「綺麗だよ」
と言う夫。
このやりとりに対して、全国400万人(勝手に推定)のコウネンキスト達が、
「ホットフラッシュで汗だくの妻に対して、夫が突然、そんなことを言うわけなかろうが!」
と心の中で叫んだことでしょう。なんで「年かな?」に対して「綺麗だよ」なのだ、と。

もちろんこれはコマーシャルですので、「ホットフラッシュを気にする妻に対して、夫は優しい言葉をかけるべき」という啓蒙的な役割を果たさんとしているのだと思います。いやもしかすると、「年かな?」という問いに対してどう答えてよいかわからず、「機嫌を損ねてはならじ」という焦りのあまり、支離滅裂なことを口走ってしまう夫の苦悩、を表現しているのか。

いずれにせよ、このコマーシャルの背景には、「更年期という事実をネタにおばさんを揶揄するのはやめよう」という意思はこもっているように見えました。そして、更年期を正しく理解しましょう、という意思も。


「きっと更年期よ」が悪口でなくなる日が……


昔は、中高年女性が少し感情的になると、「更年期おばさん」などと、陰日向に言われがちでした。男性だけでなく、若い女性もまた、おばさんを差別する言葉として「更年期」を使用していたのです。

私も若い時分は、年上の女性がカリカリしているのを見ると、
「きっと更年期よ」
などとコソコソ言っていたもの。その言葉を使用することによって「私は若い」という選民意識を強めていたのだと思うのですが、そんな自分にも更年期がやってくることを、当時は全く考えていませんでした。

今思えば、まだ更年期世代ではない人や、更年期はとっくに終わっているであろう人に対してもその手のことを言っていたような気がする私。更年期についての知識は、全く持っていなかったのです。

しかしここのところ、少し様子は変わってきました。自然の摂理としての更年期を揶揄するものではないという考えが広まってきましたし、また女性の側も、更年期を「恥ずかしいもの」として隠すのでなく、当たり前に訪れる時期として、表に出すようになってきたのです。

更年期だけではありません。毎月の生理についても、従来の日本女性は、異性にはひた隠しにして生きてきました。それが女の嗜みという感覚があったわけですが、しかし隠し続けてきたが故に、生理の真実味は異性に伝わらず、
「あいつ今、きっと生理なんだ」
などと、やはり揶揄の原因となっていたのです。
ここ最近は、生理のことを普通に語ることができる人が、増えてきたように思います。男性の側にも、その大変さを理解しようとする動きが出てきました。

更年期についても、同じなのでしょう。その時期が来たらそうなるもの、という事実を隠さず伝えることによって、身近にいる異性も、「綺麗だよ」とまで飛躍はしなくとも、何らかのいたわりを示してくれるようになったのではないか。女性特有の身体のつらさについては、「伝えなければ伝わらない」という理解が、浸透しつつある気がします。

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更年期が徐々にオープンに語れるようになってきたとしても、体に現れる様々な変化に、不調か、老化現象か、あるいは深刻な病気なのかという不安材料は増えるばかり……。後編は、酒井さんが最近感じた初めての不安にまつわるお話です。
 

前回記事「母を使いたい娘と娘に愛されたい母【母を嫌いになりたくはないのに】」はこちら>>

 
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