酒井順子さんによる書き下ろし連載。「更年期」の扱いと社会への啓蒙について分析した前回に続き、後編では、次々と訪れる身体の変化と尽きない不安への向き合い方について考察します。

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「これって何?」という初めての不安


更年期に関しては、このように「誰にも言えず、一人で悩む」といった事態は減ってきたわけですが、しかし更年期世代は、様々な病気を心配しなくてはならない世代でもあるのでした。コレステロールだの血糖値だの、色々な「数値」の増減が気になるお年頃。がん等の病気の話も身近で聞こえる機会が増え、人間ドックに力が入るように。

そんなお年頃だからこそ、何か不調が出てくると、「これは一体……」という不安が、一気に募るのです。すなわち、それが更年期による不調なのか、もっと深刻な病気なのか、それとも単なる老化現象なのか……と、悶々とすることになる。

「これって何?」という不安に私が初めて出会ったのは、胃もたれにおいてでした。会食が続き、中華料理だ焼き肉だと日々食べ続けていたら、ある晩急に、どんよりと胃が重くなったのです。

とはいえ50代、胃もたれが初めてだなどとおぼこいことは申しません。それまでもしばしば症状は感じていたものの、市販の薬を服めば、治っていたのです。

その時も、常備している胃腸薬を頓服して眠りについた私。ところが翌日になっても、またその翌日になっても、延々と胃もたれが続くではありませんか。次第に食べることが怖くなり、体重も減っていきました。

クリニックで胃薬をもらってみたものの、効果は今ひとつ。ということは、もしかして私にとってはこれが更年期なのか? ホットフラッシュなどの症状は無いけれど、人によって出方は様々だというし。と、「更年期」「胃もたれ」で検索してみると、更年期の症状として胃もたれになるケースもあるという話ではありませんか。

しかし胃が重いという状況は、もっと深刻な病の可能性もあるわけで、私の中にはむくむくと不安が広がっていきました。胃カメラが苦手という意味では人後に落ちない私ではありますが、その時ばかりは「ままよ」と、管を口から入れた。

結果としては、特に胃に大きな問題はなく、ピロリ菌もいなかったのです。一息ついたものの、ではこの胃もたれの原因は何なのだ、という疑問は残ります。であるならば……と、「更年期の一症状」ということで、自分を納得させることにしたのでした。

食べられないというのは、難儀なものです。会食においても、
「あまり重いものはちょっと……。コース料理も、苦手なんです」
ということになり、場を盛り下げることこの上ない。旅先でも、名物の美味しいものを思い切り食べることができません。食べられるというのは何とありがたいことか、という思いが募りました。

 
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