米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。

悲しい現実をユーモアで包んだ感動作【米倉涼子のシネマコレクション】_img0
Warner Bros. / Photofest / ゼータイメージ

できることなら私が個人的にアカデミー賞をあげたい! と思える映画との出会いがありました。
タイトルは『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』。邦題についている“いちばん優しい嘘”はちょっと感動をあおりすぎかなとも思いますが、たくさんの人に観てほしい作品です。

 

スーダンの内戦によって両親や家を失った子どもたちが、気が遠くなるほどの道のりを歩いて辿り着いたのはケニアの難民キャンプ。十数年後、“ロストボーイズ”と名付けられた彼らはスーダンとアメリカの協力によって、全米各地へと移住を果たします。
彼らの運命は本当に悲しいものなのですが、決してそれだけを描いた映画じゃないんですよね。たとえば、移住した先で出会った職業紹介所で働く女性、キャリーとのやりとりが最高! 結婚せずに自分で稼いでいるという彼女に「優れたサバイバル能力だ」と感嘆の声をあげ、はじめてピザを食べれば、そのあまりの美味しさに「奇跡の食べ物をありがとう」と大感激。
カルチャー・ギャップが生むユーモアがたくさんあって、気が付けば思わず笑っている自分がいました。つらい題材を扱いながらも笑いを忘れない。実話をもとにしながら、こういう作品をつくる志の高さが素晴らしいなと感じましたね。

キャリーを演じたリース・ウィザースプーンは私にとってはあまり馴染みがない女優さんでしたが、典型的なアメリカ人の女性を等身大で演じていて、とても自然な演技をする人、という印象を受けました。
彼女がこの映画の案内人の役割を果たしていて、一緒に世界に入っていくような感覚もあります。難民キャンプに行くまでにありえないほど苦労し、ともに育った兄弟や仲間たちとも移民局の規則ひとつで離れ離れになってしまう。
最後の“優しい嘘”をともなう選択を見ながら、地球のどこかではこんなことがまだ行われているんだ、という事実がずしんと胸に響いてきました。

『グッド・ライ 〜いちばん優しい嘘〜』
政府のプロジェクトによってスーダン内戦の難民キャンプからアメリカへと移住してきた人々の実話をベースにした作品。“ロストボーイズ”と呼ばれる彼らを演じる役者はオーディションによって選ばれ、実際に同じ経験をしたキャストも含まれている。

取材・文/細谷美香
このページは、女性誌「FRaU」(2015年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。