大臣就任会見で、福島県の核汚染物質の処理問題について問われた小泉進次郎・環境大臣。具体策はと突っ込まれた時の返答は、以下のようなものでした。
「私のなかで30年後を考えたときに、30年後の自分は何歳かかなと、震災直後から考えていました。だからこそ私は健康でいられれば、30年後の約束を守れるかどうかという、そこの節目を見届けることが、私はできる可能性のある政治家だと思います」

あ、あら?緊張してたのかな~?と思ったのもつかの間、NYで開催されT国連の環境関連の会見ではこんなことを。
「気候変動のような大きな問題は楽しく、かっこ良く、セクシーであるべきだ」

大臣になった途端に地滑り的にポエム化している進次郎。これまでも実のところ全然行動が伴っていなかった彼ですが、さわやかにキリッというだけでそれなりにキマっていたのですが、最近は「ウケ狙い」が見えた上に滑っているという状況で、急激に輝きを失っている気がします。でもそんな彼にも、まだ場外ホームランを打つチャンスが残されています。例の育休取得です。

進次郎「育休とるなら大臣になるな」の裏に見る、「女性が輝く社会」の本音_img0
写真:Shutterstock
 


「大臣の仕事は育休がとれるほど甘くない」ならば……


進次郎が「とるべきか、とらざるべきか」については、立派な方たちが記事にしているので、そのあたりはいつものようにおいといて。私が注目したのは、いろんなおじさん、おじいさんたちの口から出ている「とらざるべき理由」です。
例えばこちらの記事によれば、自民党の閣僚経験者と、日本維新の会代表の松井一郎大阪市長が、こんなこと言っています。

「大臣の仕事はそんなに(育休しながらやるほど)甘くない。国家の仕事が最優先でしょう。それができないなら、大臣をうけちゃだめだ」
「内閣の一員になったんだから、もう育休と言ってる場合じゃなくなった」

そしてこちらは安部首相。「国会議員は一般の人とは違う」と慎重姿勢だそうな。

全般として「重職についた人が育児休暇をとるってどうなわけ?」というかんじでしょうか。つまり裏を返せば、日本では「育休をとるような人」は大臣という重要な仕事は任せられないし、大臣という重職につきたいなら「育休とかいってる場合じゃない」ってことですね。さてこの世界で誰が育休をとる確率が高いのはだれかといえば、それは進次郎以上に「働き盛りの女性」です。「進次郎の育休取得に反対派」の反応には、進次郎が男だったからつい言ってしまった、日本社会の本音があります。

日本社会の表現するとき、よく使われる言葉のひとつが「ダブルスタンダード」ーーつまり「本音と建前」です。現政権は発足当初から、これまた美しいポエムかのように陶酔しながら「女性が輝ける社会!」とか言い続けているわけですが、その一方で、社会はいまだに「同意があったと勘違いしちゃったんだよね」という言い訳だけでレイプした男が無罪放免になる。「選択的夫婦別姓が実現したら、女性も男性と同じ権利を持っていることに国民が気づいてしまう」とかほざく議員が実在するらしい日本は、いまだ「建前としてはまあ男女平等だけど、本音としては女に偉そうにされたくねえし、生意気はいわせねえ」な国で、進次郎の育休取得をめぐるおじさんおじいさんたちの意見は、まさにそれを浮き彫りにしています。


“できない理由”が先行してしまうわけ


そして進次郎が男性であるがゆえに「そりゃあそうだよね」と見逃してしまいそうになっているのは、私たち女性も同じかもしれません。でも例えば進次郎が育休を取得せず「重要な仕事を任されたいなら、育休なんてもってのほか」という空気は、果たして大臣だけで終わるでしょうか。

例えば会社の役員は?そりゃ重職ですね。大きなプロジェクトのリーダーは?仕事最優先にしてもらわないといかんでしょう。部長とか本部長といった上級管理職は? 確かに一般人とは違う責任が伴います。女性だけどそういう風に働きたい?大丈夫です、子供を持つことをあきらめ、「昭和の男」みたいに24時間働けばいいんです。男性だったらそういう働き方をしても、子供をあきらめる必要はありません。だってワンオペで育児してくれる奥さんがいるから。でもその代わり、子供の一番かわいい時期をたくさん一緒に過ごしたいと思っても、それはかないません。だって育休をとれないんですから。

そもそも「男女平等」と「女性活躍推進」を目指す内閣であるなら、「議論」すべきは進次郎が「とるべきか、とらざるべきか」ではなく、「重職につく進次郎が育休をとることが、どうやったら可能になるか」なんじゃないか。「どうしたら取得する意識が高まるか」「どう働きかけたら、産休育休取得を企業や組織の常識にすることができるか」であるべきじゃないか。進次郎は国会議員だから給与全額支給で育休取得ができる、一般人はできないのに!というなら、それをベースに考えればいい。なんなら給与を返納させるなどの角が立たないアイデアを出して、育休取得のシンボルにしたほうがずっといいーー「育休取得の推進」とか「男女平等」を本気でやる気があるのなら。

以前、宇宙開発関連で、不可能と言われたミッションを成功させた方に取材したことがありますが、その方がいっていたことが今も心に残っています。

「何をするにも”実現する”ことを前提に、議論しアイディアを出さなければ、物事は実現しない。やれるかどうか議論しているうちは、人間は”できない理由”ばかり考えるから」。

「育休をとるべきか、とらざるべきか」なんて議論は、実のところ議論の入り口にさえたっちゃいない証拠に違いありません。

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