社会人経験ほぼゼロの専業主婦が、経済的自立を目指して奮闘する姿を綴った漫画『夫の扶養からぬけだしたい』が話題です。本作は、著者であるゆむいさんのセミフィクション漫画。金を稼がない専業主婦は夫と対等ではないのか、働くこととはただお金を稼ぐことなのか等、“稼ぎと夫婦関係”について様々なことを考えさせられる一作です。そこで著者のゆむいさんに、専業主婦が自立するために必要なこと、そして夫の扶養から外れて見えたことについて伺ってみました。

 

ゆむい

イラストレーター、ブロガー。育児や日々の出来事を中心とした4コマ漫画で、7歳と5歳の兄弟の成長を記録しているブログ『ゆむいhPa』運営。現在、ママ向け求人サイト『ママの求人』で「親になったの私だけ!?社会福祉ママと保育士パパの子育て奮闘記」を連載中。ほか、レタスクラブニュースなど育児系、主婦向けサイトや雑誌、新聞、書籍に漫画を掲載するなど幅広く活躍中。


「君を養っていくつもりはない」という
夫のひと言が忘れられず……


話題の漫画『夫の扶養からぬけだしたい』の著者・ゆむいさんは、二人の男の子を育てる専業主婦でした。結婚前にイラストレーターのアルバイトはしていたものの、正社員経験はなし。結婚後すぐに子供ができたこと、夫一人の収入でやっていけないわけではなかったこともあって、「働きたい」と思いながらもズルズルと月日が流れていました。それが数年後の今は、売れっ子漫画家として夫の扶養も外れるほどに。そもそも、なぜそんなにも「働きたい」と思っていたのでしょう?

「私が社会に出た頃は就職氷河期で、就職活動はしたけれど正社員にはなれず。アルバイト生活から拾ってもらうように夫と結婚した、というのが実情です。でも夫は“働いたことがない”というのが許せないらしくて、結婚するときにも『このまま君を養っていくつもりはないからね』と釘を刺してきたんです。そんな経緯もあって、ずっとコンプレックスがあって『働きたい』と思っていました。だけど子供がいるうえ夫は転勤族とあって、正社員の仕事を見つけるのは絶望的。パートですら、どこを受けても全滅でした。何とか、シングルマザーの方が店長をされている和菓子屋さんに雇ってもらえたのですが、夫の転勤と二人目の妊娠を機に、また元の専業主婦生活に戻ったんです」

 


絵を描き始めたものの
収入ゼロの期間が1年続いた


そんな八方ふさがりの状況だったゆむいさんが、なぜ扶養を外れるほどの稼ぎを得ることができるようになったのでしょう? それも、自身がやりたいと思っていたイラストの仕事で。

「二人目が生まれて数カ月した頃、ふと思い立って『絵日記ブログ』を描いてみたんです。その頃、普通の主婦が育児漫画などを描いて、それが人気を博して本になった、という実例がいくつかあったので、何となく自分も始めてみようと思ったんですね。本当に“ふと”で、とくに『これで頑張るんだ』という決意などがあったわけではなかったのですが、不思議なもので、一つ始めてみると、自然と二歩目、三歩目と足が出るようになって。そのままブログを続けることができたんです」

そこから漫画を見た人がイラストを依頼してくれるようになり……、というのが確かに実際の経緯ですが、そうまとめてしまうといかにも順調に今日まで来られたかのように感じてしまうかもしれません。ですが現実は、最初の依頼をもらうまで1年間は、収入ゼロの状態でひたすら漫画を描き続けていたそう。

「夫からは『それって趣味だよね』などと言われたりもしましたが、やめようと思ったことはありませんでした。描いた作品はポートフォリオで使えるし、続けていれば必ずお金になる、と思っていたんです。実際、2年目に入った頃から月に数万円程度ですが、依頼が入るようになった。それを実績として出版社に営業に行くと、新たな依頼をもらえて……、というのを繰り返しているうちに、気づけば配偶者特別控除の扶養を外れる201万円を超えていたんです」

 


一歩目を踏み出せば、自然と二歩目、三歩目が出る


ゆむいさんと同じように「働きたいけど働いた経験がないので自信がない」、あるいは「好きなことを仕事にしたいけどどうしていいか分からない」といった主婦の声は多いもの。ゆむいさんがそういったハンディを乗り越えることができた秘訣は、どこにあったと考えているのでしょう?

「準備が整っていなくてもいいので、とりあえず最初の一歩を踏み出したことでしょうか。絵が上手くて面白いストーリー案を持っているのに、『時間と体力がなくて、きちんと描けない』と足踏みしている友人がいます。すごく勿体ないと思ってしまいます。下手でもいいので最初の1枚を発信してしまえば、『次はこうしよう』と課題が見えてきて、自然と二歩目、三歩目が出るようになると思うんです」

もう一つ大きかったのは、「ネガティブなことを考えない自分の性格」だったとも言っています。

「もともと良いことしか考えないところがあって(笑)。ブログも、根拠なく『上手くいかないわけがない!』と思っていたんですよね。そんな自分の前向きな気持ちをより明確にするために、定期的にノートに具体的な目標を書き出していました。尊敬するライターさんの分析をしてみたり、『Twitterのフォロワー数を増やしたい』という目標も、いきなり5000人とかではなくて、1000人、2000人と、実現可能なところで少しずつレベルアップさせていましたね」

 


自立したことで消えた離婚願望


今やそのTwitterフォロワー数も2万人近くに。『夫の扶養からぬけだしたい』が書籍化され大人気になったこともあって、夫の扶養を抜けるどころか、それ以上の状態に。目標だった自立を果たした結果、その心境やいかに……?

「夫は『働いていないなら家事を全てやるのが当然』という考え方の持ち主で、切れたトイレットペーパーすらも絶対に変えない、という人だったんですね。今年は書籍化もあって夫の収入を上回って喜んでくれましたし、家事も洗濯は100%やってくれるようになりましたが、私の中でそれは違うんです。収入で判断されてしまうと、仕事が減って額が落ちたときに『また主は俺』という競争になってしまうだけですよね?」

実はゆむいさん、働き始める前は、収入のあるなしで物事を判断する夫との価値観の違いから、将来を悲観していたそう。

「私はもともと家事が苦手なこともあって、部屋が散らかると何かと責め立てられていたんです。それがあまりに悲しくて、ちょっと前までは自立できるくらい稼いで三行半を突きつけてやる!と思っていました。でもいざ稼いだら、冷静に夫を見ることができるようになって。夫には、“家族を守る”という夫なりの働くことに対する考えがあって、そのために必死で頑張っていたことは確か。それに、ムカつくことは言うけど浮気はしないし借金もしない、約束は必ず守るという信頼が置ける人です。だから今は夫に、『辛くなったら会社を辞めていいよ』と言っているんです。もちろん本当に辞める気はないと思いますが、少しプレッシャーからは解放されたみたい。私が自立したことで、二人とも強気になれた、という感じでしょうか」

もちろん、自立できたから全て解決ということは全くありません。この先も夫と上手くやっていけるかどうかは警戒心いっぱい。でも、行けるところまで行ってみよう、というのが今の心境だそうです。そんなゆむいさんの、扶養を抜けたこれからの目標についても伺ってみました。

「今は、一発屋で終わらないよう漫画を描き続けたいです。夫だけに負担が偏らない生活を送りたいし、やはり一家に柱が二本あったほうが安心ですし。子供の将来を考えて、力を合わせて頑張っていきたいです」

 

 

 

『夫の扶養からぬけだしたい』

ゆむい著 KADOKAWA/¥1050

『ママの求人』で連載していた漫画を書籍化したもの。イラストレーターになるという夢を諦め子育てに専念していた主婦が、「働くこととは何か?」を考えながら、自立の道を探っていく物語。子育てが大変で働くことができない人、あるいは仕事を辞めようと思っている人は、一読してみて。


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<公開期限:10月18日11:59まで>

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取材・文/山本奈緒子