米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。
『イロイロ ぬくもりの記憶』は、あまり観る機会がないシンガポール映画。舞台となっているのは、’97年のシンガポール。共働きで忙しい両親と、ひとりっ子のジャールーが暮らす家に、フィリピン人のメイド、テレサが住み込みでやってきます。これがデビュー作となる新人監督が撮った作品だそうですが、ものすごくバランスのいい人物描写に驚かされました。
子どもと離れて出稼ぎにやってきたメイド、わがままな息子が彼女に心を開くことでちょっぴり嫉妬してしまう母親、そして不況でリストラされる父親。寂しい思いを抱えていた息子。誰かひとりが主役というよりも、みんなの気持ちがそれぞれにわかる作りになっています。
リアルなタッチだから、映画というよりも、どこかの中流家庭の暮らしをのぞき見しているようで、“『家政婦は見た』シンガポール版”を観た感覚も(笑)。
シンガポールの話だけれど決して他人事ではなく、日本に置きかえて考えられるところもあります。
映像もきれいだったし、音楽もちょうどよくて、やっぱり新人監督の作品とは思えない完成度。決して派手さがある作品ではありませんが、帰り道にしみじみ「いい映画を観たなぁ」と思える作品。ぜひスクリーンで、新しい才能と出会ってみてください。
このページは、女性誌「FRaU」(2015年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。
『イロイロ ぬくもりの記憶』
アジア通貨危機による不況下のシンガポール。小学校でも問題を起こしてばかりの少年、ジャールーは、フィリピン人メイドとの出会いをきっかけに、少しずつ変わりはじめる。アンソニー・チェン監督はカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を審査員全員一致で受賞するなど、多くの世界映画賞で注目を集めた。