タレントの小林麻耶さんが、読者の方と「ほっとできる時間」を共有したい、そんな気持ちでお送りする連載です。

著書『嫌われる勇気』がベストセラーになったアドラー心理学の第一人者で哲学者の岸見一郎さんとの対談です。
小林さんもこの著書の大ファンで、これまで何度か対談されている仲。この度約3年ぶりに岸見さんとの再会が実現しました。
岸見さんはこの3年間、ニュースなどを通じて悲しみや苦しみに置かれている小林さんを気にかけ、あることを伝えたいと思っていたそうです。 

 

岸見一郎 1956年、京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健と共著、ダイヤモンド社)、『人生を変える勇気』(中央公論新社)『よく生きるために働くということ』(KKベストセラーズ)など多数。公式ツイッター:@kishimi 公式インスタグラム:@kishimi 公式HP:https://kishimi.com/

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前回記事「私たちは生きているだけで貢献している【小林麻耶さん×岸見一郎さん対談】」はこちら>>

 


「アナタは幸せになっていいんだよ」
という言葉をかけてあげたかった


岸見 この3年間、随分苦しんでおられるなと分かっていましたから、できたら力になりたいと思っていました。
でもこちらから「僕のカウンセリングを受けませんか?」と言うのもどうかと思って。髪を染めている子に、「君、きっと辛い思いがあるんだろう、相談に乗ってやろう」と言うようなものですから(笑)。そんなの押し付けがましい。

だから今日の日を待っていたのです。そして思いのほか、お元気で良かった。なかなか人に言えない辛い思いをされてきたと思うのですが、その苦しみを乗り越えて幸せになろうとされているのが伝わってきて、嬉しいです。

小林 気にかけてくださってありがとうございます。

岸見 この3年間、「あなたは幸せになっていいんだよ」という言葉をかけたいと思っていました。「この状況で私だけが幸せになってはいけない」と思っておられるのかなという印象を受けていましたので。

前回の対談で不登校の子の親の話をしたのですが、不登校の子が親に幸せでいてほしいと思うように、小林さんに幸せになってほしいと思われていたはずなのです。「自分のせいで大切な人が幸せでない」と思うのは、本人は辛いです。

私は病気をしたから分かるのですが、妻は楽観的で、手術の日も「私がここにいても何もできないから仕事に行っていいですか?」と先生に聞いて怒られたぐらい。そんな話はしてないと本人は否定するのですが、妻が私のために辛い思いをしていなかったと思えて良かったです。

小林 先生の奥さん、素敵ですね!

岸見 僕は倒れた朝、救急車で搬送されたのですが、娘も「じゃ、またね」みたいな感じで送り出してくれました。あのとき、もう二度と会えないみたいに泣かれたら辛かったと思います。

本人はまわりの人に幸せになってほしいし、自分のせいで不幸にはなってほしくない、という思いがある。
だから大変なことですし、幸せにしていたら世間は後ろ指を指すかもしれませんが、とにかく幸せになってほしい。もっともっと気持ちを穏やかに過ごしてほしいと、この3年間、何らかの形で伝えられたらと思っていました。

小林 ありがとうございます。


亡くなった人も生きている人と同じように貢献できる

 

岸見 生きることに価値がある、と言うと、亡くなった人はどうなのか?という話になってしまうのですが、亡くなった人も生きている人と同じように貢献できます。

亡くなった人のことは、知覚的にはもはや知ることはできません。声を聞くこともできないし、目で見ることも触ることもできない。でも、どんな話をしたかは覚えているでしょう? 幼いときの記憶も山ほどあるでしょう?

亡くなった人との経験を思い出せるのは決して頭の中にある古ぼけたセピア色の記憶を引っ張り出してきているからではなくて、亡くなった人のことを思い出したとき、その人はここにいるのです。
私は母を若くして亡くしていて、後に父も亡くしたのですが、母や父が話していたことを思い出すと、二人を近くに感じます。遠く離れている友達みたいな感じでしょうか。

小林 遠く離れている友達……。

岸見 ただ、遠く離れている友達であれば何とかすれば会えるのですが亡くなった人には二度と会えない。
その違いはありますが、たとえば亡くなった著者の本を読んだとき、著者がそこにいるように感じませんか?生きている人と対面して話しているような感じがしませんか?
そういう形で、人は不死なんです。「更新されないブログ」のようです。
そのブログを見たら、その人はそこにいる。そういう意味で亡くなった人は今も自分に貢献している、と思ってほしいです。