あの「箱」にはいったい何が入っているの?
多くの人が不思議に感じたことでしょう。
5月1日、皇居・宮殿で執り行われた「剣璽(けんじ)等承継の儀」で、侍従がうやうやしく捧げ持って天皇陛下に差し出したいくつかの「箱」のことです。
その日、天皇陛下の即位の儀式である「剣璽(けんじ)等承継の儀」と「即位後朝見の儀」の模様が繰り返しテレビで放映されました。このとき、「謎の箱」を私たちは幾度も見ることとなったのです。
八岐大蛇(やまたのおろち)から取り出した剣とは!?
「平成」から「令和」へと年号が変わった今年。10月22日には、「即位礼正殿(そくいれいせいでん)の儀」が行われます。
これは、5月1日から始まった即位関連の式典の一つで、新天皇の即位を国内外に示す主要儀式です。十二単(じゅうにひとえ)姿の雅子さまをはじめ、平安時代の絵物語さながらの古式ゆかしい儀式の様子をかいま見られる、数少ない機会でもあります。日ごろ私たちが触れることのない、昔の日本の美しい装いを見ることができるのです。
振り返れば、5月の「剣璽(けんじ)等承継の儀」の際、各テレビ局は日本古来の儀式についてさまざまな切り口で解説を繰り広げました。
「剣璽等承継の儀」の際に天皇陛下に差し出されたのは、四角い箱と細長い箱、それに小さな箱が二つ。
これらは、その前日に執り行われた「退位礼正殿の儀」で上皇陛下から新しい天皇陛下に譲り渡された「三種の神器」です。
四角い箱に「璽(じ)」(勾玉)、細長い箱には「剣」、これに「鏡」が加わって、皇室の正統たる帝の証しであるとされ、皇位継承と同時に継承されるものとなっています。
そして、中央に置かれた小さな箱二つは、国事行為に使われる天皇の印「御璽(ぎょじ)」と国の印章「国璽(こくじ)」です。
さらに詳しくいえば、「三種の神器」とは、「八咫鏡(やたのかがみ)」「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」をさし、「草薙剣」と「八尺瓊勾玉」を併せて「剣璽(けんじ)」といいます。「八咫鏡」は、宮中三殿の賢所(かしこどころ)におさめられています。
これらは『古事記』『日本書紀』に書かれている、神話に登場する宝物なのです。神々が地上に降りて来たときに手にし、日本の歴代天皇が継承してきたといいます。天皇が大昔の神さまの末裔だということを示す重要な宝ものなのです。
『古事記』の中の物語はこうです。
「鏡」は天照大御神(あまてらすおおみかみ)が天岩戸に隠れて世の中が暗くなってしまったとき、外から天照大御神の姿を映し、「自分より美しい女性がいる」ことに興味を覚えた天照大御神を外に連れ出させたもの。
「勾玉」は、天照大御神をこの世にお戻しする際に榊に飾られたもの。
「剣」は、須佐之男命(すさのおのみこと)が八岐大蛇(やまたのおろち)を退治したときに、その八本の尾の一つから出てきたもの。八岐大蛇とは、八つの頭と八本の尾を持つ大蛇(おおへび)のことです。
八岐大蛇の尾から出てきた剣!?
それが実際にあるの?
いったいどんな形をしているの?
次々と疑問が湧き上がってきます。
さらにこれが連綿と皇室に受け継がれてきたことに、素朴に驚いてしまいます。
『古事記』が成立したのは712年(和銅5年)であり、その50年ほど前には中大兄皇子によって大化の改新が行われています。そんな時代の話なのです。この「箱」の中身を実際に見たものはないといいます。
この「八岐大蛇から出てきた剣」と「天照大御神を連れ出すために榊に飾った勾玉(璽)」は、10月22日の「即位礼正殿の儀」の際にも、天皇陛下の前を侍従が捧げ持って先導することになります。
『古事記』とは、日本の神話の本です。名前は知っていても、その原作を直接読んだことのある人はほとんどいないでしょう。
その大昔の日本の貴重な物語を、大人はもとより子どもたちに読んでもらいたいと望んだ人がいました。神話を素直に信じる子どもたちに、分かりやすい言葉に直して読ませたいと考えたのです。
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