愛しているなら、相手のすべてを受け入れる義務があるのか?


周囲によく思われたい。誰かに自分を丸ごと受け止めてもらいたい。実際に演じてみて、そんなひろみの思いに「共感する部分も多かった」と語る佐久間さん。愛しているから隠すのか、愛しているからさらけ出すのか。お二人が思う答えとは?

佐久間 私、個人的に、未來さんの面構えがすごく好きで。舞台や映画など、いろんな作品を拝見してきましたが、聡明で美しい生き方が顔に出てらっしゃるなと。実は今回の共演は、これまでのお仕事で一番緊張したんですよ。撮影以外でも普通にご一緒していましたが、いざ撮影となると緊張でガクガクになっちゃって(笑)。今でもその感覚がすぐ思い出せるくらい。

森山 何もしてないけど(笑)

佐久間 私が勝手に「緊張感もってやらねば!」と思っていたんです。監督からも「森山さんをよく見て、自分なりにやってごらん」とも言われていたので、マジマジと観察もしました。印象に残っているのは、ふたりの関係がぎくしゃくし始めた頃に、ひろみが一方的に怒るシーンです。あの場面の三沢さんって「ああ、なぜかこうやって責めたくなる人っているよな」ってすごく思いました(笑)。そういう存在の仕方が素晴らしいなと。

森山 ひろみに「買ってきて」って頼まれた牛乳を、三沢が毎回忘れるという(笑)。なんでなんだろうね。牛乳飲む習慣がない、っていうわけじゃないだろうし。

佐久間 原作者の方は「精神的に追い詰められて、思考停止しているんじゃないか」とおっしゃっていましたね。

森山 ひろみの場合は、彼女自身のトラウマもあって、極端に振り切ったアプローチになってるんだよね。でもああいう人って結構いると思う。

佐久間 理解できるところもたくさんありました。三沢に対して「あなたには私のすべてを受け入れる義務がある」って言うじゃないですか。あれもめちゃくちゃだけど、女性なら誰もがどこかで望んでいることかも。私自身も、ありのままの自分をすべて受け入れてくれる人がいてくれたら素敵だなと思いますし。

森山 逆を言えば、隠さなくていいとも思うんだよね。最近は何かにつけて「隠れ」が多くなっている気がするけど、「周りにどう思われても自分はこうしたい」というアクの強い人のほうが面白い。失うものも多い生き方だろうけど、リスクを背負っている感じも魅力的だと思うよ。

 

佐久間由衣 1995年3月10日生まれ。神奈川県出身。『人狼ゲーム ビーストサイド』(14/熊坂出監督)で女優デビュー。NHK「ひよっこ」で注目を浴び、現在放送中のNTV系『ニッポンノワール -刑事Yの反乱-』などドラマ多数。主な映画出演作に、『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』(19/野口照夫監督)、『あの日のオルガン』(19/平松恵美子監督)がある。12月13日には「屍人荘の殺人」(木村ひさし監督)が公開される。第32回東京国際映画祭にて、東京ジェムストーン賞を受賞。
 

 

森山未來 1984年8月20日生まれ、兵庫県出身。演劇、映像、パフォーミングアーツなどのカテゴライズに縛られない表現者として活躍している。主な映画出演作としては『世界の中心で、愛を叫ぶ』(04/行定 勲監督)、『モテキ』(11/大根 仁監督)、『苦役列車』(12/山下敦弘監督)、『北のカナリアたち』(12/阪本順治監督)、『人類資金』(13/阪本順治監督)、『怒り』(16/李 相日監督)などがある。2019年の大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」に出演中。公開待機作にカザフスタンとの共同制作の「オルジャスの白い馬」がある。
 

佐久間由衣さん、森山未來さんの写真をもっと見たい方はこちら>>

<映画紹介>

『“隠れビッチ”やってました。』
12月6日(金)全国ロードショー

自身の体験をベースに描いたコミックエッセイ「“隠れビッチ”やってました。」の作者、あらいぴろよさんが考案した“隠れビッチ”とは、一見すると清楚だが、実は男心を弄ぶビッチのこと。“隠れビッチ”というネーミングは強烈ですが、その根っこにある要因は、「愛されたい」という願望、傷つくことへの極度の恐れ、自信のなさからくる承認欲求など、性別は関係なしに誰もが多かれ少なかれもっている普遍的なものばかり。ひろみの場合はそれを少々こじらせすぎてしまったけれど、自分に向き合い、自分の弱さや自信のなさを受け入れて、一歩を踏み出そうと前を向きます。映画『“隠れビッチ”やってました。』は、自分の黒い部分や過去の傷を隠している人にとって、ある種の処方箋のような映画なのです。

© 2019『“隠れビッチ”やってました。』フィルムパートナーズ/光文社

誠実そうなバツイチ中年男性や自信家のIT系肉食男子、ノーマル系サラリーマン…男性のタイプに合わせたモテテクを駆使し、男性たちを次々と落としていく主人公のひろみ役に抜擢されたのは、本作が映画初主演となる佐久間由衣。

ひろみが自分に向き合い、成長するきっかけとなる恋人・三沢役に、森山未來。

© 2019『“隠れビッチ”やってました。』フィルムパートナーズ/光文社

主人公を見守るシェアハウスの仲間で、バイセクシャルのコジ役には村上虹郎。

© 2019『“隠れビッチ”やってました。』フィルムパートナーズ/光文社
© 2019『“隠れビッチ”やってました。』フィルムパートナーズ/光文社

さらに、笑顔が爽やかな美容師・安藤役に小関裕太、ひろみの女友達役を大後寿々花が演じます。また前野朋哉、片桐仁、前川泰之、栁俊太郎、戸塚純貴ら個性豊かな俳優たちが、ひろみの餌食となり翻弄される様も見どころです。

出演:佐久間由衣 / 村上虹郎 大後寿々花 小関裕太 / 森山未來
監督・脚本:三木康一郎
原作:あらいぴろよ「“隠れビッチ”やってました。」(光文社刊)

2019年/日本/日本語/112分/カラー/ビスタ/5.1ch
配給:キノフィルムズ/木下グループ
公式サイト:kakurebitch.jp

撮影/塚田亮平
ヘア&メイク/冨沢ノボル(佐久間さん)
メイク/HIROKI(FIVEISM×THREE・森山さん)
へア/uenochika(森山さん)
スタイリング/木津明子(佐久間さん)、杉山まゆみ(森山さん)
取材・文/渥美志保
構成/川端里恵(編集部)