発売から6年かけて200万部を突破した異例のベストセラー『嫌われる勇気』(古賀史健と共著/ダイヤモンド社刊)。この本で、日本では馴染みの薄かった「アドラー心理学」を世に広めた哲学者の岸見一郎さんが、現役高校生からの問いに答えたのが、今回紹介する『哲学人生問答 17歳の特別教室』(講談社刊)。年末年始に読むのに最高の一冊です!


生きているだけで価値がある


そもそも本書は、岸見先生の母校でもある京都、洛南高校で行われた授業をまとめたもの。
岸見先生自身、毎年、東大・京大合格者を多数輩出する名門校の生徒たちが何を考えているかを知りたかったことから質疑応答形式の授業スタイルとなった結果、本の中身も生徒たちの率直な質問と、それに対する岸見先生の熱い回答から成り立っています。

 

授業は、2年の男子生徒による「幸福とはなんですか」という質問からスタート。
のっけから一体どんな答えが飛び出てくるのかとわくわくしていると、「幸福とは感覚的なものではありません」という岸見先生の一言が。「あ~幸せ~」は感覚的なものと捉えがちなだけに、衝撃を受けました。
さらに岸見先生は哲学者・三木清の言葉を引きながら、「私たちはすでに幸福で“ある”ことに気づくことが、普通の言葉でいえば“幸福になる“ことであるということができます」と回答。
まさに「哲学人生問答」といった感じですが、岸見先生は全編を通して、「生きているだけで価値があるんだよ」と我々に訴えているように思えました。

 

「幸福」はオリジナルなもの。「成功」は一般的なもの


また「幸福はオリジナルもの」であるがゆえ、自分の幸せが他人に理解されにくいことはままあることだと言います。
その例として、元NHKアナウンサーの島津有理子さんが2018年にNHKを退職し、44歳で医師を目指して大学生になったことを挙げていました。

「島津さんの決心は医師になって成功するためのものではありません。それなら、なぜ医師になる決心をしたのか。このことについても考えなければなりません。今は、成功を目指すだけが人生ではない、それどころか成功をものともしない人がいることを心に留めてください」

岸見先生がここで語った「成功」とは一般的なものであり、たとえばそれは「NHKのアナウンサー」であったり「一流企業の勤め人」であったり「政治家」であったりします。
一方で「幸福」は個々人で異なるオリジナルなものなので、40歳を過ぎてNHKを退職し、医師を目指して大学生になるような行動は理解されにくいのだ、と説明されていました。


悩みも幸福も、対人関係がなければ得られない

 

また“自分軸”で生きられない悩みを抱える高校生たちからは、こんな質問も飛び出します。

「人に嫌われないように生きていると、本当に幸福になれないでしょうか」
「人の評価を気にして生きてきたので、“ありのままの自分”がわかりません」

SNSが発達し自己表現の幅がグンと広がった一方で、自分の投稿や行動に対し、周囲からどんな評価がつくのか気にする人も多いでしょう。今年ヒットしたドラマ『凪のお暇』のヒロイン・凪も、人の目ばかり気にしてしまい、自分の幸福を見失っていました。
そんな悩みに対して岸見先生は、「自分の人生に責任を持つ」ことの大切さを説いています。

「いつか、人生の重大決心をしなければいけない日がきっと来ます。そういう時、人の顔色をうかがっていては駄目です。(中略)人間的にはいい人で、何事もない時には人生もうまくやっていけるかもしれませんが、人生の大きな決断をしなければならない時にどうするかは重要な問題です」

自分の人生を自分で選び取る勇気をもってほしいと語った岸見先生は、変えのきかない「この私」を認めることで、自分の価値を見出すことができるとも話されていました。

その他にも「いじってくる相手との距離のとり方がわかりません」「給料とやりがい、どちらで仕事を選べば幸福になれますか」など、高校生たちが「よりよく生きるために知りたい!」と思った魂の底から出たような名質問と、それに応える岸見先生の名回答ばかりが並びます。
年末年始の一息タイムに、帰省の道中で、お子さんと一緒に、ぜひ一問ずつでも読んでいただきたい一冊です。

 

『哲学人生問答 17歳の特別教室』
著者:岸見一郎(講談社/税別1300円)
 

学校では教えてくれない本物の知恵を伝える「17歳の特別教室」シリーズ第4弾。「ありのままの自分を受け入れられません」「嫌いな人との付き合いが避けられない時、どうしたらいいでしょうか」など、現役高校生がアドラー心理学で知られる哲学者、岸見一郎先生に本気の質問をぶつけます。
「17歳の特別教室」と銘打ったシリーズですが、大人も子供も目を開かれること必至。一気に読めてしまうほど優しく平易でいて、心にずっと残る言葉がたくさん詰まっています。

構成/小泉なつみ