11月1日に行われたフィギュアGPシリーズフランス大会、男子SPでの宇野昌磨選手。 写真:Raniero Corbelletti/アフロ

いよいよ始まる全日本フィギュアスケート選手権は、来年の世界選手権代表を決める大一番。男子に関しては、羽生結弦選手はほぼ当確。残りの2枚の切符を各選手で争うかたちです。

 

ただ、本来ならもうひとり全日本を迎えるまでに事実上の当確ランプをともしているスケーターがいました。それが、宇野昌磨選手です。今年6月にスケート人生をずっと共にしてきた山田満知子・樋口美穂子両コーチのもとから卒業。メインコーチをつけないまま、新たなシーズンを迎えることとなった今季は不調が続き、グランプリシリーズは2戦ともに表彰台を逃す結果に。

今季の成績だけを見れば、代表争いのライバルとなる田中刑事選手や友野一希選手、山本草太選手らに大きなアドバンテージをつけているとは言えず、残る2枠は団子状態。全日本ジュニアで優勝した鍵山優真選手や、ジュニアグランプリファイナルで優勝した佐藤駿選手が表彰台に乗ることも十分に考えられる混戦模様を呈しています。

そんな中、はたして宇野選手は全日本でどんな試合を見せるのか。

スポーツライターではない僕は、宇野昌磨選手に取材をしたことは一度もありません。もちろん知り合いでもなんでもなく、ただずっと宇野選手のスケートを応援してきたファンの一人に過ぎません。だから、間違っても断定をするような言い方は避けたいのですが、これまでのインタビューを見る限り、ずっと宇野選手は迷っていたような気がします。
 

宇野昌磨選手の武器は、ジャンプか表現か

GPシリーズフランス大会、男子SPの演技より。写真:Raniero Corbelletti/アフロ

フィギュアスケートはスポーツか芸術か、というのはもう何十年も語り尽くされてきたテーマ。そして、宇野選手がもともとはジャンプではなく表現に重きを置き、特にノービスからジュニアにかけては、その非凡な表現力で評価されてきたスケーターであることもよく知られている話です。

そんな宇野選手が、あるとき一気にジャンプの才能を開花させた。4回転トウループとトリプルアクセルを同時習得し、世界ジュニア王者に。シニアに入ってからも4回転フリップ、4回転ループ、4回転サルコウと次々と高難度のジャンプを身につけ、トップスケーターの仲間入りを果たしました。

ジャンプが、自分のスケーター人生を変えてくれた。けれど逆にジャンプに気をとられることで、表現に力を注げなくなった。勝つためにスケートをしているのか。それとも自分が満足できる演技をするためにスケートをしているのか。宇野選手の心の天秤はいつも不安定に揺れていて、どちらの皿が下がるかは、その時々で違うように見えました。

写真:Raniero Corbelletti/アフロ

実際、昨季の国別対抗戦で、平昌五輪で挑戦した4回転ループなど「跳べるはずのジャンプをいくつも練習せずに1年を過ごした」と振り返り、男子フィギュアの進化に追いつくためには「成長していかなければいけない」と4回転ジャンプの種類を増やすことに意欲を示していました。エキシビションの練習中にはまだ試合で成功していない4回転ルッツを着氷。直前の世界選手権の惨敗で挫かれた闘争心に、難度の高いジャンプを跳ぶことで火をつけようとしているようでした。

 
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