“ブルーオーシャン戦略”で勝負を
棚卸しをおこなったら、次におこなってほしいのが「武器を増やすこと」だそう。田村さんは「経済力」を身につけるために、資格という武器を身につける必要がある、と考えました。
「たしかに大手企業に入れば経済的自立はできますが、同じ学歴なら見た目のいい方を採用するだろう……、私は冷静にそう考えました。加えて私の母は、一度OLを辞めた後復職に苦労した経験があったため、『会社員はやめておけ、それより手に職をつけろ』とずっと言っていたんです。そこで何か資格を取ろうと考えた。そのとき、現実的に私の実力で手が届くのが税理士だった、というわけです」
そして、ここでも田村さんは戦略を練ることを怠りませんでした。もともと税理士は女性の割合が15%ぐらいと少ないうえ、20代の税理士となるとその割合はさらに減ります。「若い女性が少ない世界にいけば、少々ブスでも希少価値が生まれる!」と気づき、少しでも早く資格を取得すべく、大学院に進むことを決めたのです。
「これはマーケティング用語で“ブルーオシャーン戦略(※)”と言います。女性が少ない職場だとライバルが少なくてモテるように、競争相手の少ない市場で勝負するというもの。だから私はとにかく最短で資格を取得しようと考えました。税理士試験は5科目あるのですが、大学院に行けば2科目試験が免除されるんです。そのため税理士仲間からは『(全科目合格していない)大学院卒なんだ〜』とマウンティングされることもありますけど、そんなことはお客さんにとってはどうでもいいことですよね。とにかく早く合格することのほうが重要だと考え、お金の力で解決することにしました(笑)。その後自分の不甲斐なさもあってモタモタはしたのですが、何とか25歳ですべての科目に合格することができたんです」
※ ブルーオーシャン戦略
競争者のいない新しい市場を創造し、ユーザーに高い付加価値商品を低コストで提供することで、利益の最大化を実現する戦略。このように未開拓で無限に広がる可能性を秘めた未知の空間を「ブルーオーシャン」、反対に多数の競争者がいて激しい血みどろの競争を繰り広げている既存の市場を「レッドオーシャン」と呼ぶ。
その後、いくつかの挫折を経たものの、見事29歳で自分の税理士事務所を開所(現在は税理士法人化)。ここでも田村さんはブルーオーシャン戦略をとります。
「私だって事務所を持つなら、そりゃあ港区とか渋谷区とかカッコいいエリアにしたかったですよ。でもそういったビジネスエリアは大手事務所が多くて、個人事務所は相手にしてもらいにくいんだろうなあと思っていました。何より税理士事務所の数もすごく多い。実際、多くの知り合いがそういったエリアで開所しましたが、競争が激しいため広告費がかさんでやっていけなくなり、結局郊外に開所し直していました。だから私は、若い税理士が少ない足立区ならニーズがあるかもしれない、と考えたんです。単純に事務所の数も少ないからネット検索ですぐ見つけてもらえたこともあって、順調に顧客が増えていきました。理想を100としたとき、皆いきなり100の地点からスタートを切ろうとしがちです。でもまずは自分を受け入れてくれる場所で実績を積み、それから望むところに進出していったほうが実現率は高いと思うんです」
相手の求めるものを見極めることが何より大事
一方で合コンを重ね、会話力や行動力を身につけ、目標だった結婚も達成。事務所開所と時を同じくして、第一子にも恵まれます。でももちろん、ここが田村さんのゴールではありません。事務所を軌道に乗せるため、顧客をしっかり獲得していかなければなりません。そこで、「棚卸し」、「武器を身につける」に続いておこなった3つ目の戦略が、「相手の求めるものを見極めること」でした。
「趣味で作ったものをフリーマーケットなどで販売されている方は、少なからずいらっしゃると思います。ときどきそういった方から、『会社にしたいんだけど』と税務相談を受けることがあるんですね。でも広い市場を見回せば、同じようなものが遥かに安い値段で売られているんですよ。買い手のニーズを想像すれば、それよりも高い値段で売りたいなら自分の商品にしかない魅力を増すことが必要だ、ということが分かります。つまり、何をやるにしても相手の求めるものを考えることは不可欠。私も税理士として生き残るためビジネススクールに通っているのですが、これはビジネスのアドバイスをしたときの説得力を増すため。お客さんはただの税理士にアドバイスされるより、絶対に経営学修士の学位を持っている税理士にアドバイスしてもらいたいですよね。アドバイスしている内容はビジネススクールに行く前と後とで変わってないんですけど、顧客のニーズを想像したとき学位の肩書きが必要だと考えたんです」
あらためて、田村さんが構築した目的実現のための行動戦略をまとめてみましょう。
① 自分の棚卸し
② 武器を増やす
③ 相手の求めているものを見極める
この3つさえしっかりおこなえば、大抵の目標はまず実現できると田村さんは言います。
「私は今34歳なのですが、このくらいの年齢になると、“旦那の関心が薄れる→満たされない→だから社会に出たい→でも離職して長いから自信がない”という流れで悶々としている女性が多くいます。でもそうやってためらっている間に行動していれば、今頃はもう目標が実現できていたかもしれません。もちろん叶えたい夢がないなら動く必要はありませんが、あるなら是非行動してほしい。『◯◯だからできない』は絶対に違う。ブスでも忙しくても働いた経験がなくても、行動さえすれば夢は叶いますから!」
毎日をモヤッとした気持ちで過ごしている人は、まずは“自分の棚卸し”をおこなってみてはいかがでしょうか? そこから、自分に足りないものだけでなく、意外な自分の強みも見えてくるかもしれません!
『ブスのマーケティング戦略』
田村麻美著 文響社 ¥1500(税別)
子供の頃からブスを自覚していた著者が、「ブスでも幸せな結婚」「ブスの経済的な自立」の2つの目標を立て、それを叶えるべく行動を開始。その行動戦略と、様々なブスエピソードを織り交ぜて綴ったエッセイ&実用書です。本書は、主に容姿によって様々なことを諦めている人、若い頃は容姿を武器にしてきたけれども30歳を超えたあたりからその武器が通用しなくなった人に向けてメッセージを発していますが、インタビューで答えているように、あらゆる言い訳のもと行動しない人たちにとって役に立つ戦略がたくさん載っているので、是非一読を!
取材・文/山本奈緒子
(この記事は2019年1月22日に掲載されたものです)
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