朝日新聞社に28年間在籍し、女性初のAERA編集長を経て2017年3月、50歳でネットメディアに転職を果たしたBUSINESS INSIDER JAPAN統括編集長の浜田敬子さん。昨年11月に初の書き下ろし著書『働く女子と罪悪感 『こうあるべき』から離れたら、もっと仕事は楽しくなる』(集英社)を出版されました。女性の社会での活躍を拒むものとは何なのか? 浜田さんにお話をお伺いしました。
(この記事は2019年1月29日に掲載されたものです)
浜田敬子 1966年、山口県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業後、朝日新聞社に入社。前橋、仙台支局を経て、週刊朝日編集部、AERA編集部へ。2006年に出産し、育児休業取得。2014年に女性初のAERA編集長に就任。2017年に退社し、BUSINESS INSIDER JAPAN統括編集長に就任。ツイッター:@hamakoto
著書には書けなかった夫との関係。「女性、母親だからこうあるべき」という呪縛
男女雇用機会均等法が施行してから3年後の1989年に、朝日新聞社に入社した浜田さん。ニュースの現場にいる仕事を“天職”と感じ、1999年には念願だったAERA編集部に配属。以来、17年間AERAとともに走り続けてきたといいます。浜田さん自身、結婚や出産を経ても働き続け、AERAでも、働く女性が抱える問題や悩みに焦点を当てた記事を数多く取り上げてきました。
浜田さんが初の著書を書く決意をしたのは、自身が経験し、考えてきたことを記すことで、今、働くことに悩んでいる女性に少しでも役に立てれば、という思いから。本書を読み進めていくと、女性であるがゆえの葛藤に胸が締め付けられそうになることも。あらゆることをさらけ出しているように思える内容ですが、実は十分に掘り下げられていないことがあるといいます。それは夫のこと。
「周りの人にも指摘されたんですけど、夫のことはあまり書けていません。一番気になっているのは夫との関係性なのですが、自分の中でまだ整理できていないんでしょうね」
朝日新聞社時代の後輩で、同じ新聞記者。ずっと浜田さんの仕事を応援してくれ、同じ編集職として理解しあえる部分も多いはずと思いきや……。
「娘が思春期で受験を控えている時期なのですが、夫に『全然仕事のペースを落とさないじゃないか』って言われたんです。編集長として仕事をしている私の事情ももう少し理解してくれてもいいのに……」
そんな浜田さんには忘れられない出来事があります。その名も“コロッケ事件”。数年前のこと、仕事が忙しくてデパ地下でおかずを買って帰ろうと思った浜田さんが、夫に「何が食べたい?」と尋ねたところ、「コロッケ」という返事が返ってきました。「じゃあ買って帰るね!」と答えたところ、「コロッケぐらい作ってあげられないの?」と言われたというのです。
「コロッケを作るのってめっちゃ大変なんだよ! 揚げ物をすればキッチンが汚れるし、あとで油も捨てなきゃいけないし。コロッケ“ぐらい”って言うな! と思いながらデパ地下で買って家に帰ったら、なんと夫がコロッケを作ってたんです。しかも、それから時々、コロッケだけでなく唐揚げも作るようになって」
他人から見れば、「食事を作ってくれるいい夫」と映るかもしれません。でも、忙しい時は惣菜に頼ってもいいんじゃないかと考えていた浜田さんにとって、夫の手作りコロッケは、そうした考えを非難されているように感じられました。
「私、家の冷蔵庫をいつもパンパンにしているんです。それは、仕事が忙しくていつ買い物できるかわからないので、たくさんストックをしておきたいから。なのに、夫には『すごいストレス』って言われました。冷蔵庫をいっぱいにしているのは、私の欲ではなく、家族のためという気持ちの現れなのに、それを理解されていない寂しさがあって……」
出産、子育てをしながら仕事を続け、女性初のAERA編集長に就任し、50歳でウェブメディアに華麗なる転身を遂げ、華々しい経歴の持ち主のように思える浜田さんでも、まだ自分の中で整理しきれていない部分があるというのです。
「既存の価値観に縛られて、ワーキングマザーが子どもや家庭を犠牲にしている、と“罪悪感”を抱く必要はないということを伝えたかったけど、私自身も“女性だから、母親だからこうあるべき”といった価値観から完全に自由になれているわけではなく、1割くらいは残っているんです。こう見えても(笑)」
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