古典から新作まで、話題作には欠かせない存在の歌舞伎俳優、尾上松也さん。歌舞伎の二枚目である立役姿の凛々しい美しさ、ロックなミュージカルで見せる不敵なワイルドさと、ジャンルの枠すら超えて、作品ごとに多彩な魅力で観客を楽しませてくれます。そんな松也さんの主演作が2020年1月12日よりBS トゥエルビにて放映スタート。野中英次さんのギャグ漫画『課長バカ一代』、通称“カチョバカ”の実写版連続ドラマです。今回はどんな顔を見せてくれるのでしょうか。
尾上松也(おのえ・まつや) 1985年1月30日生まれ。東京都出身。5歳で父・六代目尾上松助の襲名披露にて、二代目尾上松也として『伽羅先代萩』の鶴千代役で初舞台。子役として数々の舞台を踏んだのち、10代の頃は女方を中心に経験を積む。近年は立役として大役を勤めて活躍している。新春浅草歌舞伎ではリーダー的な存在。2009年より歌舞伎自主公演『挑む』を主宰。歌舞伎以外にもミュージカルの舞台出演や連続テレビドラマの主演などにも挑戦している。歌舞伎俳優の屋号は音羽屋。
現場が楽しい作品は、オンエアされる作品も面白い
「『課長バカ一代』を初めて読ませていただいたときは、とにかくシュールで面白かったです。ただ、これを1話30分のドラマとして成立させるのは、なかなかのチャレンジだなと。ですが僕は比較的、チャレンジ精神豊富な企画のほうが好きなものですから、ぜひ演じてみたいと率直に思いました」
松也さんが演じるのは、家電メーカーに勤める社員、八神和彦。「課長補佐代理心得」というわかるようでわからない微妙な肩書きをもち、上司に出された課題に毎回バカ全開で取り組む真面目な男。大して内容のないバカな話を、これまた真面目に同僚たちと語り合いつつドラマは展開していくという、まさに“シュール”な笑いに溢れた作品です。
独特な作風のコメディ。出演にあたって、どんな取り組みをしたのでしょうか。
「コメディやシリアスな作品でも共通して、現場が楽しく、また自分も楽しくできることがまず大事だと僕は思っています。特にこの『課長バカ一代』は、現場で眉間にしわを寄せて考えていても面白くなるとは思えませんでした。たしかに笑いをつくるのは難しいことですが、やはり根本は、その場のみんなが楽しんでいるかどうかではないでしょうか。現場での空気感が、どんな作品でもオンエアで伝わってしまう気がするんです。その意味では、この作品は恵まれていますね」
サラリーマンを演じるのはドラマ初主演作だった「さぼリーマン甘太朗」に続いて2度目。「どちらの役も、サラリーマンというより“変なヤツ” を演じている感覚です(笑)」と話す松也さん。現場で共有するポジティブな空気感について、さらに教えてくれました。
「今回の『課長バカ一代』も、“甘太朗”を一緒につくった気心の知れた同じチームなんです。ですので、あらかじめ計画するというより、シーンごとにアイデアを出し、相談しながら、このチームでつくる自分たちの笑いに取り組んだ感じがあります。あとは、その面白さがご覧くださる皆さんに伝わるか。蓋を開けてみないとわかりませんが、暗くなる要素はまったくない作品ですから(笑)、それはもう、観れば元気になっていただけると思います」
真っ直ぐで純粋。周りを気にせず自分を貫く生き方
八神和彦というキャラクターは、松也さんからはどう見えているのでしょうか。
「真っ直ぐで真面目な男で、純粋なところのある人ですね。だからこそ、これだけの“周りの見えなさ”加減なんだと思います。バカになれるのは、周りが見えてないから。彼がやっていることは周りから見れば爆笑もので、突っ込みどころしかありませんが、本人はおかしいとは微塵も思ってなくて、そのギャップが面白いですよね。周囲の人もいつの間にか巻き込まれて八神と同じようになって、気づいたら『あれ? 八神がまともなこと言ってないか』という状況になっている。そういう影響力がありますね」
とかく空気を読むことを求められるこの世の中。周りが見えない八神の強烈なマイペースさは、眩しくも見えてきそうです。
「周りのことはどうしても気になりますし、社会のいろいろなセオリーに縛られて我々は生きていますからね。僕も人にどう思われているか、モテたいとかモテたくないとか(笑)、気になります。ですが八神は、暗黙の了解があることにすら気づかずに生きている。そんなふうになれたら、楽しいだろうなと思います。彼にも『ヤバい……。どうしよう』というときがありますが、すぐに『いや、なんとかなる!』とポジティブに切り替わっていますし。僕にはなかなかできないので、羨ましいですよ」
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