苦手なことを無理して克服しなくてもいいと思えるように


ここ数年はメキメキと俳優としての存在感を増してきた小池さんですが、それ以外の分野でもマルチに活躍している印象があります。

「挑戦することが怖いなと思うような仕事もありますよ。でもある時、すごく信頼していた友達から『期待されてる、期待以上の結果を出したいと思うから、不安になるんじゃん?』って言われて、それが腑に落ちたんですよね。『どれだけ自己評価が高いんだよ。周りは大して期待してないって思えば、もっと楽になるんじゃないの』って。たぶん苦しくなってしまう人って、そのオファーを失いたくない、そのポジションにしがみつきたいと思いすぎているんじゃないかと思うんですよね。あと、すぐにモノにして評価されたいと思っているのかも。私自身、例えば『カンブリア宮殿』なんて、10年超えるぐらいまでずっと緊張しっぱなしでした」

 

同時に、30代後半あたりからは「自分ができることとできないこと、得意なこと不得意なこと」が見えてきて、それを覆そうと躍起になることがなくなったのだとか。

「私が苦手なのは、“ゼロからイチを生み出す”という作業です。与えられたものを、1から3に、1から5に、というのは大丈夫なんですけど。同世代には“こんな作品がやりたい”“この監督とやりたい”という具体的な目標を持ってやっている役者さんもいますが、自分は若い頃からそういうのがあまりなくて。20代の頃はそれがコンプレックスで、何か作らなきゃ、考えなきゃって思っていたんですが、歳を重ねて、いろんなタイプの人がいていいんじゃないかと思えるようにもなりましたね」


お芝居の仕事は、旅に出たような幸福感がある


20代の頃は多く出演していたバラエティ番組に対しては、自分の言葉で瞬発的に笑いを作る芸人さんの「ゼロイチ」のスゴさを見るにつけ、「自分にはやりきれない」という思いがあったといいます。そんな中で見つけたのが、お芝居の楽しさでした。

「お芝居の役って、自分とは違う人が作ったものじゃないですか。でも、長期にわたる撮影で役に付き合っていると、最初は全然共感できなかった感情が、いつの間にか自分のものになっていたりする。作品をやるごとに役に教えられ、自分の感情が豊かになってゆき、どこかに旅に出たような幸福感があるんですよね」

小池栄子39歳。『八日目の蟬』の悔しい思いを経た、ヒロインの覚悟とは_img0
 

小池栄子 1980年生まれ、東京都出身。98年、TVドラマ「美少女H」で女優デビュー。08年、主演映画『接吻』で毎日映画コンクール女優主演賞やヨコハマ映画祭主演女優賞などを受賞。映画、舞台、TVと幅広く活躍。主な出演作は映画『パーマネント野ばら』『乱暴と待機』(10)、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18)、『記憶にございません!』(19)、ドラマ「わたし旦那をシェアしてた」(19)、「俺の話は長い」(19)など多数。成島出監督作品は、日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞した『八日目の蟬』(11)のほか、『草原の椅子』(13)、『ふしぎな岬の物語』(14)、『ちょっと今から仕事やめてくる』(17)がある。

<作品紹介>
『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』
2020年2月14日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

小池栄子39歳。『八日目の蟬』の悔しい思いを経た、ヒロインの覚悟とは_img1
小池さんが演じるキヌ子はじめ、愛人たちひとりひとりの衣装も見所のひとつ。©2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ 配給:キノフィルムズ

没後70年を経てもなお人気の衰えない昭和の文豪・太宰治。彼の未完の遺作を、鬼才・ケラリーノ・サンドロヴィッチが独自の視点で完成させ、舞台で上演したのが2015年。この舞台「グッドバイ」は観客を笑いと多幸感で包み込み、第23回読売演劇大賞最優秀作品賞に輝いた。情けないのになぜかモテるダメ男・田島役に大泉洋、美貌を隠し我が道を生きるパワフル女・キヌ子には、舞台版で同役を「当たり役」とした小池栄子という最強キャストを得て、新たな魅力に満ちた人生喜劇映画として生まれ変わる。共演は、水川あさみ、橋本愛、緒川たまき、木村多江、濱田岳、松重豊という華麗な実力派俳優陣。監督は『八日目の蟬』で日本アカデミー賞最優秀監督賞に輝いた成島出。嘘(にせ)夫婦の計略を見届けたとき、あなたの人生ももっと愉快に輝き出す―!



出演:大泉洋 小池栄子
水川あさみ 橋本愛 緒川たまき 木村多江
皆川猿時 田中要次 池谷のぶえ 犬山イヌコ 水澤紳吾/戸田恵子・濱田 岳/松重豊
監督:成島出
原作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ(太宰 治「グッド・バイ」より)
音楽:安川午朗 脚本:奥寺佐渡子 
製作:木下グループ 配給:キノフィルムズ 制作プロダクション:キノフィルムズ 松竹撮影所
©2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ

撮影/塚田亮平 
ヘア&メイクアップ/山口公一(スラング)
スタイリング/えなみ眞理子
取材・文/渥美志保 構成/川端里恵

 

 
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