正しさを追い求め、真っ向からチャラ男に挑む女性社員。
自分が雇ったにもかかわらず、ことなかれ主義でチャラ男を放置する社長。
チャラ男と会社組織をクールに観察する、政治家志望の総務部社員……。

20代から60代まで、様々な人が働くジョルジュ食品で、チャラ男は少なからず波紋を起こします。そして同僚たちがチャラ男にムカついたり嫉妬したりする中で、不思議なことにそれらの感情は「働く」というテーマに波及していくのです。

小説『御社のチャラ男』から見える、「現代で会社員する」難しさ_img0
 

「チャラ男って本当にどこにでもいるんです。一定の確率で必ず」

帯にも使われていたこのセリフは、55歳の男性社員によるものでしたが、切れ者でもなく、人望が厚いともいえない「チャラ男」がなぜ会社に存在するのか。ジョルジュ食品の社員たちの声を聞いていると、それは会社という社会が生み出した現代の産物なのかも……と思えてきます。
 

 

「チャラ男」の正体は○○○


カスタマーサポートを担当する48歳の女性社員は、チャラ男こと三芳部長を、わがままな女の子のような内面性を隠さない人物と分析します。
また、営業部で働く20代の男性社員は、男らしさにしがみつかないチャラ男に羨ましさを感じていました。

社員思いでもなく、男尊女卑も甚だしい三芳部長ですが、私が唯一良いなと思ったのは、チャラ男という薄っぺらさを全面的に引き受け、自認しているところ。それは20代の男性社員が指摘していたとおり、男らしさを放棄している姿にも見えました。
また、カスタマーサポートの社員の分析のように、自分の中にある女性性も隠さない彼は、男らしさや女らしさが問い直され、「自分らしい働き方」を模索する過渡期の“今”そのものなのかもしれません。

さらに、好きでも嫌いでもない会社でなんとなく働き続ける意味まで問われるような本作。
チャラ男の考察だと思っていたら、思わぬところに連れて行かれること必至です!
 

小説『御社のチャラ男』から見える、「現代で会社員する」難しさ_img1
 

『御社のチャラ男』
著者:絲山秋子(講談社/税別1,800円)


ドレッシングメーカーのジョルジュ食品に入社してきた三芳部長は、周囲から密かに「チャラ男」と呼ばれていて……。周囲の人々の「チャラ男」考察から、会社組織、さらには働く意義があぶり出されていく話題作。


構成/小泉なつみ

 

 
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