けれどもハードな働き方は確実に身体に負荷をかけていました。

「徹夜続きの生活を続けるうち、次第に平衡感覚がなくなってしまって。何をしていても頭の中がゆらゆらずっと揺れているような状態になってしまったんです。お医者様のアドバイスもあり、会社を辞めることにしました」

しかし関係者に退職の挨拶をしていたところ、次のキャリアチェンジにつながる提案をもらいます。

「仕事先の方から『退職しちゃうの? よかったらフリーランスになれば? 契約するよ』と言っていただいて」。こうしてゆかさんは思いがけずフリーランスの番組制作ディレクターとして働き始めることになりました。

その後、出産による仕事の中断や派遣社員期間なども経て、2015年からフリーランスの番組制作ディレクターとしての仕事を再開したゆかさん。ところが、またしても家事・育児と仕事の両立の中で、身体をこわしてしまいます。

そして養生しているときに、さらに大きな転機が訪れます。夫の転勤でした。

仕事をしたい気持ちはあったものの、居住エリアや子どもの預け先との兼ね合いで専業主婦として過ごすことに。しかしこの時間がゆかさんにとってはかけがえのない時間になりました。
 

 

「振り返ってみれば、働いていない時期は自分にとって必要な時間でした。息子とゆっくり時間を過ごして生活を見直し、幼稚園で顔を合わせるママ友と出し物を考えたり卓球クラブを作ったり。存分に楽しみましたし、公園で子どもを遊ばせながらママ友と語り合うなかで、自分の世代が抱える本音を知ることができました」

 

この時期のゆかさんがメインテーマにしていたのが、仕事の再開に備えて「緊急性ではなく重要性のあることに時間と労力を割く」ということ。

「具体的には断捨離と家計の見直しです。所持品は3分の1くらいになって、家事導線がずいぶんスムーズになりました。料理も楽しくなって、ムダな外食も減って学生時代の体重に戻ったくらい(笑)。キャッシュフロー表を作って、電子家計簿で自動記帳も導入。ひとつひとつ、固定費を見直して施策を打って……そうしたら支出の大幅圧縮ができて、自己肯定感が上がりました。両立のネックになっていた家事を見直したことが、仕事再開への自信につながったんです」

ゆかさんは専業主婦の頃に、のちの再就職を見据えてWarisへ登録。夫の転勤終了と同時に上京するタイミングで就職活動をスタート。キャリアカウンセラーからのアドバイスもあり、3年弱の離職期間を経て、ゆかさんの志向性に合う投資会社で週3日勤務の正社員の仕事を得ました。「社会を包む閉塞感に変化を起こしたい」。そんな想いを大切にするゆかさんにぴったりの職場で、図らずも20年の時間を経て、再び投資の世界に戻ってきました。

現在、働いていない残りの週2日は、転勤時代に始めた会計の勉強を続けています。そしてフルタイム勤務にしなかったのには、もう一つ理由が。
「実は、小1の息子は入学後にディスクレシア(文字の読み書きに難しさがある学習障がいの一種)の傾向があることがわかり、特別なサポートが必要なんです。週3勤務というフレキシブルな働き方でなければ、とても両立してこられなかったと思います」

そんなゆかさんには新たに見えてきた夢があります。

「これまでの経験や学びを重ね合わせて、数字面での知識を持ちつつ、閉塞感に立ち向かう会社や事業を伝える仕事をもう一度やってみたいです」

ハードワーク期間やブランク期間を経て、自分らしいワークスタイルを見つけつつあるゆかさん。ブランク期間をなかなか肯定的に捉えられない方もいるのですが、実はブランクも「キャリア」なんですよね。その期間をどう生かすか? その過ごし方がご自身の次のキャリアへとつながっていきます。ゆかさんのようにテーマを持って過ごしたり、ブランク期間中から人材エージェントへ登録するなどしたりして情報収集を開始するのも手です。

人生100年時代。70歳近くまで働き続けることを考えたら、いっとき「働いていない期間」が生まれるのもそれほど珍しいことではありません。少しでも前向きにとらえて、自律的なキャリア形成へとつなげていけたらいいですね。

前回記事「夫の死をきっかけに再出発。40代で大企業管理職を辞めた女性が手に入れたもの」はこちら>>

 
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