米倉涼子さんが見た、最新のおすすめエンタメ情報をお届けします。

「新聞記者」 Blu-ray ¥4800(税抜) 発売・販売:KADOKAWA ©2019「新聞記者」フィルムパートナーズ
 

今年の日本アカデミー賞受賞で話題になった『新聞記者』を観て思い浮かんだのは、この連載でも紹介した『スキャンダル』。“政府”と“テレビ局”と描かれる背景は違っても、巨大な権力の裏側に迫ったという意味で、近いものを感じました。普段は洋画を中心に観ているので、こんなにも攻めた映画が日本でも作られているんだ! と驚きと刺激をもらった作品でもあります。

 

物語の始まりは、東都新聞の社会部記者、吉岡エリカのもとに医療系大学新設に関する極秘文書が届いたこと。許認可先の内閣府を調べはじめると、キーパーソンである神崎が自殺してしまいます。同じ頃、政権を守るための情報操作をする任務に就いているのが、神崎の外務省の後輩で今は内閣情報調査室に出向している杉原拓海。彼は神崎の死を通して、官邸が進めているありえない計画を知ることになります。

 

フィクションということですが、原案は東京新聞の記者のベストセラー。大学の新設に関する疑いなど、ニュースから聞こえてくる現実と重なることが描かれています。一番気になったのは、政権に批判的なSNSの書き込みをコントロールするための部署が描かれているところ。こんな部署って本当に存在するのだろうか、ここに配属されたら心を無にしてパソコンを叩くしかないんだろうな……、と恐ろしくなりました。

 

人がもがき苦しんでいる時に国家や内閣が何をしてくれるのかを描くことは、日本では難しいのだと思います。だからこそきっとこういう映画が少ないのだろうし、若い監督や出演者の方たちにとっても勇気が要ることだったのではないかな、と。
西田敏行さんがいつも、とても魅力的な俳優さんだと褒めている松坂桃李さんも素晴らしかった! 国家の闇に気付きながらも、生まれたばかりの子供を守りたいという思いもあって、狭間で踏ん張っている。その葛藤が痛いほど伝わってきました。
今、会ってみたい役者さんのひとりです。ラストで彼が口パクでつぶやいた言葉、私はわからなかったのですが、みなさんはどう受け止めましたか?

記者の吉岡は日本人の父と韓国人の母の元に生まれて、アメリカで育ったという女性。シム・ウンギョンさんは日本語を猛特訓されたのだろうな、と思いました。それと同時に、私が英語のセリフを話している時にはどう受け止められているのか改めて考えないと……という気持ちにもなりました。
母国語ではないセリフを発する時には、言葉と言葉の隙間をどうするのか、細かいところにも課題を感じています。これからはいろいろな意味でこういうチャレンジングな作品にも取り組んで経験値を上げていかないと、置いていかれてしまう。
女優としても刺激を受けた作品です。

 

『新聞記者』

東都新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに届いた大学新設計画に関する極秘情報。彼女は真相を究明すべく調査をはじめる。一方、内閣情報調査室官僚・杉原(松坂桃李)の任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。久々に尊敬する昔の上司・神崎と再会するのだが、その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。
真実に迫ろうともがく若き新聞記者と、「闇」の存在に気付き、選
択を迫られるエリート官僚。二人が交差した時、衝撃の事実が明らかに……。

取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)