凪良ゆうさんの『流浪の月』はBL目線で読むと納得感がある


渥美:読書会を一緒にやっているメンバーから「これ、絶対本屋大賞とるから読んでみて」ってすすめられて読んだんですよ。それまでノーマークだったんですが、読み始めたら一気に読んでしまった。それですぐ連絡したんだよね。「バタやん、『流浪の月』は読んだ? 凪良さんにインタビューしませんか?」って。

バタやん:はい。すぐ読みました。こんなに没頭したの久しぶりっていうくらいぐんぐん入り込んで読み終えました。「インタビューしましょう」ってなって。インタビューはこれからなんですけど、ミモレに掲載の予定なので、楽しみにしてもらえたら。

装丁も非常に美しい。
『流浪の月』
<あらすじ>
主人公の家内更紗(かない さらさ)は、小学生のときに大学生の佐伯文(さえき ふみ)という青年に誘拐されて2ヶ月間監禁されていたという過去を持つ。事件の“被害者”、“加害者”となった二人が大人になり再び出会って……。
 

バタやん:現在の更紗は、恋人の亮と暮らしているわけですが、これがとんだDV男というね。更紗は再び出逢った文のほうへどんどん気持ちがいってしまうわけです。渥美さんはこの本をどう読みました?

渥美:更紗は両親を失い、伯母さんの家に引き取られているんですよね。両親のもとでは自由な感じで育てられていたのに、伯母の家では自由がなくなって、自分を出せなくなるんだけど。(監禁されたとされる)文のもとでは、更紗は自由を得ていた。そういう背景があるんだけど、外からはわかんないから、いわゆる「ロリコン」「気持ち悪い」みたいに見られちゃうんですよね。

バタやん:「周りからは理解されない関係」というところが切ないですよね。凪良ゆうさんは、ボーイズラブの作品を多く書かれているということで。

渥美:そう思って読むと納得感があるね。この文くんは非常に美しい容姿で、物腰も穏やかで文学的。腐女子にとっての「理想のBLのキャラクター」なんじゃないかと思いました。

バタやん:なるほど。私BLはあまり読めてないのでわからないのですが……、GL(ガールズラブ)・百合は結構好きで読みます。これは容姿も振る舞いもフェミニンな文くんと更紗の百合小説として読みました。肉体的に結ばれることがゴールじゃなくて、ただただ一緒にいたい、そばにいたい、話をしたいっていうね。惹かれ合う二人の愛。そういう説明し難い関係性をこれからもぜひ書いて欲しいと思いました。


Kindleのポピュラーハイライト機能で読書が2倍面白くなる


バタやん:話がそれますけど、渥美さん、Kindle派なんですよね。私、紙派なのですが、Kindleの良いところ教えてください。

渥美:すぐ手に入るっていうのもあるけど、マーカーを引けるんですよね。自分がマーカーを引いた箇所の一覧も出てくるから取材にも便利。あと、この本を読んだ他の人がどこにマーカーを引いたかっていうのがわかるんですよ。それが「ポピュラーハイライト」機能ね。

バタやん:面白いですね。結構一致するものですか。

――『流浪の月』のポピュラーハイライト箇所を読み上げる渥美さん。

バタやん:ああ。わかる! そこ私も覚えてる!

渥美:この本を好きな人は、こういう文章に惹かれる人たちなんだなっていうのがわかって面白いですよね。一人で読んでるんだけど、趣味趣向を共有している感覚がある。
 


『ライオンのおやつ』は小川糸さんの新境地

 

バタやん:ミモレで小川糸さんにインタビューしましたね。渥美さん、実際にお会いになっていかがでした?

渥美:作品の印象と同じ、柔らかで優しい物腰の方でした。でもこの『ライオンのおやつ』は今までの作品とだいぶ印象が違う。ご自身にも新境地という実感があるじゃないですか?と聞いたのです。

バタやん:そう、これまでの小川さんのどちらかというとほっこりした温かみのある作品というイメージがありました。今回も表紙やタイトルからほっこりした話なのかなと予想していたから、いい意味で裏切られた。

『ライオンのおやつ』
<あらすじ>
主人公の海野雫は余命宣告を受けた後、瀬戸内の島にあるホスピス「ライオンの家」で過ごすことを決める。そこでは週に一度、ゲストのリクエストに応えた「思い出のおやつ」が出される。

渥美:小川さんご自身がお母様を亡くされたこと、ドイツでの体験が執筆のきっかけになったとおっしゃってましたね。死と向き合う、死とは何かを真っ向から描いています。母親との確執も小川さんの重要なテーマだったわけですが、このインタビューの時にすごく面白かったのは、「これまでの作品は“母への恨み”で書いた」っておっしゃっていて。恨みからあんな優しく美しいものが書けるんだってびっくりしました。


アート系スポ根漫画風『線は、僕を描く』は映像化に期待

 
『線は、僕を描く』
<あらすじ>
両親を交通事故で失った大学生の主人公・青山霜介(あおやまそうすけ)が、アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山(しのだこざん)と出会い、なぜか気に入られ、弟子入りすることに。その巨匠の孫娘と霜介は、水墨画の賞をめぐって対決する。

バタやん:あれ。『ライオンのおやつ』の雫も両親を失ってましたね。

渥美:『流浪の月』も両親を失ってるよ。

バタやん:本屋大賞を狙うなら、両親を失った主人公を描くべし!! 違うか(笑)。今年、漫画大賞を『ブルーピリオド』がとったんですよね。あれは、なんでもそつなくこなす醒めた感じの主人公が、東京藝術大学を目指して奮起する、スポ根青春ものとアートの世界がミックスされたような話なんですけど。それと似てるなと思いました。あと『ちはやふる』とか。アートとスポ根の融合というかね。『ちはやふる』が好きな人はハマれると思います。

渥美:砥上さんご自身が水墨画家でらして、この作品がデビュー作なんですよね。水墨画の描写が本当に素晴らしい。この絵を見てみたいっていう気持ちになりますね。映像でみたい。水墨画の描写以外の描き方がもうちょっと……っていうところもあるんだけど。コミカルなところもあり、キャラも立っていてぐんぐん読めますね。これからに期待ですね。


まだまだ続く「2020年本屋大賞・勝手に全作レビュー」は次回へ続きます。次回は、第4位となった横山秀夫さんの『ノースライト』。バタやんはこの作品を大賞にと推していたのですが、その理由とは……。

 
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