マンガ大賞2020が発表され、大賞に選ばれたのが山口つばささんの『ブルーピリオド』。同作は、マンガ大賞2019でも最終選考に残っていたのですが惜しくも第3位。今年、満を侍して大賞受賞となりました。
マンガ大賞とは、マンガ好きの書店員を中心とした選者が、誰かに薦めたい“今一番フレッシュなマンガ”を投票で決める賞。過去には、東村アキコさんの『かくかくしかじか』、末次由紀さんの『ちはやふる』、ヤマザキマリさんの『テルマエ・ロマエ』などが受賞しています。
『ブルーピリオド』は、美術大学を目指すスポコン受験物語。同世代から母親世代まで世代・男女とも幅広く心を揺さぶる同作のストーリーと見どころをご紹介します。
主人公は高校2年生の少年、矢口八虎くん。朝まで仲間と渋谷でオールをしても翌朝は家に帰って学校へ。イケメンで人当たりもよく成績は常に上位のリア充少年です(少女マンガの世界なら、塩対応も交えつつ壁ドンしてくれそう)。でもどこか空虚で退屈な日々に不満もありそうな気配。
このまま要領よく毎日を送っていたら、一流大学(早慶なら楽勝レベル)に通って有名企業に就職しそうな彼ですが、ある日一枚の絵に心を奪われます。
やべえ…
うわあ…
美術部員の絵か?
すげえ
…あれ?
なんで隣の人緑色なんだよ
妖怪じゃん
!
それ以来、美術部の先生や先輩の言葉に惹きつけられる八虎くんに読み手側も話の急展開を予感。
そして運命の絵に出会ってまもなく、いつもの仲間とスポーツバーでサッカー観戦中のこと。日本代表が奇跡の大逆転を迎えた瞬間、盛り上がりながらも彼の心は冷えていました。
この感動は誰のものだ?
他人の努力の結果で酒飲むなよ。
お前のことじゃないだろ
先日のラグビーW杯では私たちも日本代表の選手に感動をもらいました。しかし日々トレーニングを積み、同じ目標に向かって勝利をつかみ取った選手たちとは異なる景色でしょう。そう、八虎くんは感動を与える側の道を選んだのです。
そしてこれまで退屈でしかなかった美術の授業で「伝えたい」という感情のままに絵を描きます。そしていつもつるんでいる仲間に絵で表現したかったことが伝わった瞬間、涙が溢れます。
その時生まれて初めて
ちゃんと人と会話できた気がした
言葉ではなく絵で伝えられた喜びを知った八虎くんは芸術の道を歩むことに。目指すのは東大よりも倍率が高い日本一の難関校、東京藝術大学!
え、今から間に合うの? 彼は決して天才ではありません。今まで気づかなかったけれど絵は上手い。でも本気で藝大を目指している人からしたら素人レベル。でも彼がゼロからのスタートということにより、読み手側も一緒に受験していくかのような感動を味わえます。しかも絵の技法や美大受験に関する情報の描写が丁寧で細かく説明されているので臨場感たっぷり。実は作者の山口つばさ先生が藝大出身! フィクションでありながら半分ノンフィクションというのもこの作品の魅力のひとつです。
もしかして、あの絵に出会っていなかったら八虎くんの道は違っていたかもしれません。周りから羨ましがられる環境を、ほしいままにして人生を歩んでいたことでしょう。
しかし、それでも彼は自分の感情を抑えることをやめたのです。
高2の夏、彼の人生が動き始めます。そんな青の時代の物語。
ただ、お母さん目線で言えば藝大受験に大反対の八虎・母にちょっとだけ親近感。我が息子ですから、苦労のない道を選んで欲しいわけですよ。言ってみれば少女マンガの八虎でOKなんです。だからこそ彼がお母さんに藝大受験の意思を伝えたシーンでは涙腺崩壊。ああ今思い出しても泣ける。言葉のない世界は雄弁です。
絵にそこまで興味がない人にとっても、色環の話はおしゃれのカラーコーデに役立ちそうだし、構図や絵の技法は美術鑑賞の楽しみ方につながるはず。私たち世代にも役立つ情報が満載です。
3月23日に発売になった最新巻7巻は、新章「大学編」がスタート! 熱き戦いはまだまだ続きます。まずは無料の1話をどうぞ!
▼横にスワイプしてください▼
『ブルーピリオド(1) (アフタヌーンKC) 』
著者 山口 つばさ 講談社
成績優秀かつスクールカースト上位の充実した毎日を送りつつ、どこか空虚な焦燥感を感じて生きる高校生・矢口八虎(やぐち
やとら)は、ある日、一枚の絵に心奪われる。その衝撃は八虎を駆り立て、美しくも厳しい美術の世界へ身を投じていく。美術のノウハウうんちく満載、美大を目指して青春を燃やすスポ根受験物語、八虎と仲間たちは「好きなこと」を支えに未来を目指す!
Comment