緊急事態宣言の延長により、全国的に休校が長引く中、これまでに例のない「親子時間」が続いています。2歳の子持ちの筆者も保育園からの登園自粛願いを受け、ただいま絶賛2オペ育児&在宅ワーク中です。
医業や配送業など、リスクを背負って社会を支えてくれている方々のことを思えば贅沢な悩みかもしれませんが、誰にも頼ることができない中、家事・育児・仕事をこなすのは、想像以上にハードです。
毎夜子どもの寝かしつけが終わると、今日も一日なんとか乗り越えられた安心感と疲労がドドドと押し寄せ、そのままへたり込む日々。

仕事をするために子どもをYouTube漬けにしていること。夫と家事・育児の分担をしたのにイマイチうまく機能しないこと……。そんな罪悪感とイライラが積み重なる中、すがるように手にとったのが、ホストやデザイナーなど、さまざまな職歴を持つ異色の小説家・海猫沢めろんさんの育児エッセイ『パパいや、めろん』です。

海猫沢めろんさん 写真/森 清

2011年に子どもを授かっためろんさんですが、翌年にパートナーが体調不良で療養に入ったことから、ワンオペ育児を経験することになります。
そんな体験を経てめろんさんが得た悟り(?)が、逃げ場のない育児に腐りそうな今の自分に大変、沁みまして……。

 

「感情のスイッチを切って育児機械になり、ミルクとおむつとだっこを繰り返す。それが男の育児だ。
適性とかそういうものではなく、やるしかないのである。母性とか父性とかそういうものはどうでもいい。人類には最初からそんなものはないと思ったほうが良い。
とにかくやれ」

めろんさんは、全編にわたって男性が育児に参加する必要性を笑いたっぷりに書いていて、上記の一文も、「男の育児はワンオペから」という一節にあったもの。基本的には、小さい子供のいるお父さんに向けた(ちょっとハードな)激励の言葉です。

しかし、このような非常事態のもと、保護者である自分や夫が潰れたら、残される子どもが困るばかりか、社会全体に迷惑がかかってしまう恐れもある。であるならうじうじ悩むより、いっそ割り切って“理想の育児”スイッチをオフにした方が、親である我々の心身の安定が保てるのではなかろうか……。
めろんさんの言葉で、この長期戦に対して腹を括れた気がしました。

 

「結婚・出産は、別にそんなネガティヴなことばかりでもないし、かといってポジティブなことばかりでもなく……まあ、単なる日常のひとつなのである」

「いきなり意識を変えてアメリカのように家族ファーストでポジティヴに子育てをするよりも、会社に通勤するようなノリで淡々と処理するほうが日本人向きな気がする」

このあたりも、ビンビン刺さった言葉です。
育児本に載っているような優等生的アドバイスではなく、血反吐を吐きながら子どもを育ててきたからこそ出てきた至言の数々は、説得力が桁違いなのであります。

本書の中では、長期休暇を「いかに地雷を踏まないで過ごすかというデスゲームの始まり」と書き、子どもと長い時間を過ごすためのノウハウや、我慢できなくなった方がやるしかない「家事チキンレース」を回避する知恵、子どもとYouTube問題など、今まさに、家の中で勃発していることの数々が語られています。

自分が読んでためになるのはもちろん、そっと机の上に置いておき、パートナーや子どもにも読んでほしい、令和の育児スタンダード本でした。

 

『パパいや、めろん 男が子育てしてみつけた17の知恵』

著者:海猫沢めろん(講談社/1200円+税)
6月24日発売

育児を「終わりなきデスゲーム」と語る、小説家で一児の父である海猫沢めろんさんによる子育てエッセイ。いつまでたってもお手伝い感覚が抜けない夫の謎や、子どもにさせるべき習い事など、誰もが気になる育児のアレコレを、笑いとともに教えてくれる一冊です。


構成/小泉なつみ