「普段より時間がある」「おやつを買いに行けない」「子どもたちと一緒に」……おうち時間が激増した今、お菓子作りが大人気。薄力粉やバターが売り切れているスーパーも多いようです。
そんななか、SNSで話題になっているのが“若山曜子さんのバナナブレッド”。 3月31日にインスタグラムに投稿されたレシピ動画は再生回数14.3万回(5月13日現在)で、たくさんの人が実際に作っています。
簡単で、作りやすくて、おいしい、そして写真やコメントを見ていると「私も作ってみたい」と思わずにいられない。
外出自粛生活を楽しくしてくれるバナナブレッドのレシピを生み出した若山曜子さんに、その人気の秘密を伺いました。
菓子・料理研究家。東京外国語大学フランス語学科卒業後、パリへ留学。ル・コルドン・ブルー、エコール・フェランディを経て、パティシエ、ショコラティエ、コンフィズールのフランス国家資格(C.A.P)を取得。パリのパティスリーなどで経験を積み、帰国。帰国後は雑誌や書籍、テレビなどでお菓子と料理のレシピを提案。作りやすく、再現性の高いレシピに定評がある。インスタグラムは@yoochanpetite、公式You Tube「Recettes de Yoko Wakayama 【若山曜子のレシピチャンネル】」を開設。
インパクトのあるビジュアル、簡単に作れそう、
というのがきっかけに
ーー最近、インスタグラムやフェイスブックで「若山曜子さんのバナナブレッドを作りました」という投稿を見ない日はありません。いつもはお菓子作りをしていなかったり、「初めて焼いた」という人も多いようです。この現象、若山さん自身はどう思いますか?
若山曜子さん(以下若山):たまたまインスタグラムにレシピ動画をアップしたタイミングが緊急事態宣言の直前で、みなさんが「おうちで楽しめること」を探していたのかもしれないですね。あとは、バナナという親しみやすいフルーツが主役だから、お菓子作りの初心者でも「これならできるかも?」と感じていただけたんじゃないでしょうか。
ーーインパクトのあるビジュアルも人気の理由でしょうか?パカーンと縦に切ったバナナが大胆にのっていて、どうにも作りたくなるんです。シンプルだけど楽しそうで、確かに初心者の私たちにもできそうな気がします……。
若山:縦に切ったバナナのトッピングは、投稿にも書きましたが、書籍「やさしいバナナのお菓子」の撮影のときはスタッフさんに「先生、大胆すぎない?」って笑われたんですよ。私はおいしそうに見えると思ったんですけど……。でも、今になってみるとSNSで縦切りバナナのバナナブレッドがあると、「私のレシピで作ってくれたのかな」って目印になってくれています。
ーーミモレのブロガーさんや編集部でも、作った!という人がいます。実際にどんな反響がありましたか?
若山:「簡単にできました」「おいしかったです」、そしてなにより「バナナブレッドを作ることでとても幸せな気持ちになりました」という声がすごくうれしかったです。生地を作って、型に入れて、オーブンで焼くと、台所から甘い香りが流れてくる。その香りと時間に癒されたという方が多かったようです。あと、作ったお菓子をご両親などにプレゼントしている方もいて。手作りのお菓子って絶対必要なものではないんだけれど、心を明るくするのには絶大な力があると個人的には思っていたんですが、本当にそうなんだなぁって。海外在住の方からも反響がありました。日本よりも外出制限が厳しい国が多いですし、電子書籍はありますけど、日本のレシピ本はなかなか手に入らない状況の方が多いですからね。このバナナブレッドは材料も万国共通で揃えやすく、作ってくださった方が多かったようです。
ーーそれはダイレクトメッセージやコメントで届くんですか?
若山:そうです。今はちょっとたくさんのメッセージをいただきすぎていて対応しきれていないんですが、できるだけお答えするようにしています。逆に、投稿のタグ付けもありますが、焼き上がりや、お子さんと作られている動画をタグ付けしてストーリーに投稿される方も多くて。よろこんでもらえているんだなとうれしくなります。ハッシュタグから投稿をみてアドバイスしてしまったことも。型から生地が盛大に溢れちゃっている焼き上がりを投稿された方がいたんですが、それはおそらく、型紙の敷き込み方が浮いてしまっていたんです。そのときは見かねて、聞かれてもいないのにオーブンシートの敷き方をお伝えしてしまいました。
ちなみに敷き込み方は、前から気になっていたんです。なかなかテキストでは説明できないので。その方にお伝えしたときに、深夜ですけど思い立って動画にしたんです。こちらも隠れた人気があって、9万回ほど再生されていますね。
You Tubeを開設したのも、もっとポイントをわかりやすく伝えたいと思ったからです。
簡単、でもおいしくするために省けないポイントは必ず入れる
ーー世の中には数え切れないほどのバナナブレッドのレシピがあると思うのですが、若山さんがご自身のレシピを完成させる際に心を砕いた部分はどこですか?
若山:私が普段からレシピを作るときに大切にしているのは“誰にでもできる、再現性の高さ”なんです。動画でも、文字だけでも、誰もが失敗なくできるようなレシピにする、というのが私の仕事であり、やりがいだと考えています。
例えば、バナナブレッドの液体(ここではバナナ、卵液、ブラウンシュガー、溶かしバター)と粉類の混ぜ方。アメリカのトラディショナルなやり方だと交互に混ぜるのが基本で、ボウルが2つ必要なんです。簡単にしたいからといって、液体に粉末をどさっと一気に入れるとダマになって、うまく膨らみません。どうしたら、簡単に、洗い物も少なく、失敗せずに混ぜられるか試行錯誤を重ねて、現在の手順のレシピになりました。
テロップでも、失敗しないために守ってほしい部分やポイントは、文字で入れるようにしています。それも多すぎたり長過ぎたりすると難しそうに見えてしまうから、言葉は絞り込んで入れています。混ぜるシーンで“さっくり”とヘラで混ぜるのか、“しっかり”と泡立て器で混ぜるかは結果が違ってくるから、はっきり字でも注意喚起するわけです。
ーーインスタグラムの1分の動画にまとまっている、というのも簡単そうで人気の秘密かもしれませんね。そして、もちろん美味しくないとこんなにブレイクしないと思うんです。若山さんのレシピを、“神配合”と呼ぶ人もいるとか。バナナもたっぷり、それも黒く追熟したものがおすすめなんですよね。
若山:そうですね。確かに普段は見たことのない様子のバナナになっていきますから、初めてだと不安になりつつ面白いかもしれません。フォロワーさんからも「バナナを寝かせて、追熟待ちです」とか、「主人が食べてしまったのでまた買って隠しています」といったメッセージをいただいています。ちなみに、私のレシピではバナナもかなり多めで、18cmのパウンド型の場合、普通は100~150gぐらいを使うレシピが多いのですが、私のものは200gまで増やせるように全体のバランスを調整しました。
なんでバナナを増やしたいかっていうのも理由があって、買ってくるお菓子と家で作るお菓子の魅力の最大の違いって、やはり香りだと思うんです。粉が焼ける香り、バターの香り、バナナのような果物が加熱された甘い香り……。ここでは限界まで熟成させたバナナの香りと甘さをうんと楽しんでほしいから、たーっぷりのレシピになっています。「完熟バナナを2本」を主役にバランスをとって考えたレシピなので、しっかり完熟するのを待って作っていただきたいですね。
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