家族は僕らが最初に経験する共同体


松居 僕、家族というものからずっと逃げていたんです。俯瞰できないから、家族というものを作品にできなかった。演劇や映画って、自分の考えをみんなと共有しないといけないじゃないですか。自分は家族に対してこういう思いを持っていて、こういうふうに作ってほしいと伝えなきゃいけないけれど、それを言いたくなかった。でも小説なら編集者と二人だけの作業だし、人と共有しなくても書けると思ったんです。それで、この小説はフィクションですが、父が癌になって余命を告げられてやきもきして過ごした時期の、一連の自分の感覚をベースにしました。小劇団とか商業演劇のあり方とか、身におぼえのあるところから書き始めていったんです。

又吉 僕らが最初に経験する共同体って家族やから、家族の中での立ち位置と社会に出た時の立ち位置は無関係ではない。そういう読み方ができて面白かったですね。松居さんは普段から立体的にこの世界や時間をとらえてはるねんなとも感じました。

 

松居 最初は、原稿用紙やパソコンに向かうと「小説を書く」って構えてしまって、全然書けなかったんです。それで、ブログを書いたりLINEを送ったりする感覚で、スマホで書き始めたらできました。

又吉 スマホで全部書いたんですか?

松居 はい。その後でパソコンで整理する作業はやりましたけど。又吉さんも、『人間』の後半で家族に向き合おうとしていますよね。あれはどうしてですか。

 

又吉 僕は、家族のことしか興味がないくらいなんです。子供の頃からずっと父親の機嫌と母親の顔色をうかがいながら動いてきたんで。だからどの作品もだいたい、父親と母親の比喩ですね。

松居 はあー(感嘆)。僕は母子家庭の時間のほうが長くて、父親のことを考えないようにしていたし、父親は仮想敵みたいな感じでした。父は僕のやっていることに興味を示さなかったので、あの人の目に入るくらいの頑張りをしようって思っていたんです。それに、会うといつも無表情でつまんなそうにしてて、人生楽しいのかなって。反面教師にしていました。

又吉 僕も父親のことは、好きは好きなんですけれど、反面教師にしていましたね。父親がお酒好きでギャンブル好きだから、それを全部しなかった。父親が芸人ぽいから、僕は公務員のような芸人になろうと思い、当初は飲みにも行かないで、仕事終わったらすぐ帰ってネタを作ってて。時間が経つと結局父親に似てきて、むちゃくちゃ酒好きになりましたけど(笑)。結局親子やから、父親の嫌やなというところが、自分から出てきますね。

松居 身体の匂いが父親っぽくなった時とか、しんどくなります。

又吉 僕、子供の頃から父親が眉間にしわを寄せて考え事している顔を見て、何格好つけてんねんって思ってて。何年か前、お吸い物飲んで、飲み終わってお椀の黒い影に映っている僕の顔がめちゃくちゃ父親のそれに似ていて。

松居 (大笑)

又吉 そうか、オトンは別にカッコつけてたんじゃなかったのかと(笑)。

松居 ずっと父親は存在しないものとして生きてきましたが、今回書いてみて、よくも悪くも自分には父親というものがいたんだなと認められたというか。自分の中で、今後は他の仕事でも、家族を描いてOKにしようと思っています。

又吉 気持ちが変わったんですね。

 

松居大悟(まつい・だいご)
1985年、福岡県生まれ。劇団ゴジゲン主宰、映画監督。2012年長編映画初監督作品『アフロ田中』が公開。『アイスと雨音』や『君が君で君だ』でも注目を集め、ドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズのメイン監督を務める。2017年に北九州市民文化奨励賞受賞。

 

又吉直樹(またよし・なおき)
1980(昭和55)年、大阪生れ。吉本興業所属のお笑い芸人。コンビ「ピース」として活動中。2015(平成27)年、「火花」で芥川賞を受賞。他の小説に『劇場』『人間』、エッセイに『第2図書係補佐』『東京百景』などがある。


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<作品紹介>
『またね家族』

定価:本体1650円(税別)
ISBN 978-4-06-518291-8


父の余命は3ヵ月。何者にもなれなかった僕は――
あなたの息子には、なれたのでしょうか。


小劇団を主宰する僕〈竹田武志〉のもとに、父から連絡があった。
余命三ヵ月だという――。
自意識が炸裂する僕と、うまくいかない「劇団」、かわっていく「恋人」、死に行く大嫌いな「父親」。周囲をとりまく環境が目まぐるしく変わる中、
僕は故郷の福岡と東京を行き来しながら、自分と「家族」を見つめなおしていく。不完全な家族が織りなす、歪だけど温かい家族のカタチ。


撮影:村田克己(講談社)
 
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