静の豊川悦司と動の常盤貴子。そのケミストリーが、奇跡を起こした


そして、このドラマにエターナルな輝きを添えているのが、主演の豊川悦司と常盤貴子のふたり。とにかくこの豊川悦司によって「背が高い男の人がたまらなく好き!」と開発された女性たちは相当多いはず。部屋の裸電球を手を伸ばして取り替えるシーンは、紘子ならずとも思わずふれたくなる引力が。

名作ドラマ『愛していると言ってくれ』が、私たちの心を掴んで話さない理由_img0
ドラマ『愛していると言ってくれ』より。 ©︎TBS

さらにその大きな手で描き出される手話は、まるでひとつのパフォーミングアートのよう。指揮者がスティックを振るような晃次の手話は、夜想曲のように穏やかで、だけど感情をあらわにしたときは交響曲のように激しい。さらに、紘子との手の対比も見事で、ふたりが指切りをしたときの晃次の手の大きさは男性的で、ただ指切りをしただけなのに、後ろから抱きすくめられたような感覚を覚えます。

 

白シャツをゆるりと着ただけのファッションは豊川悦司にぴったりで、はだけた胸元から覗く鎖骨は色っぽいのに品があり、もう今のドラマでは見ることのできない歩きタバコからも大人の男の渋みと気だるさがにじみ出ています。

そして、どちらかといえば物憂げなニュアンスが強い晃次ですが、実は意外とよく笑うタイプで、あのミステリアスな目元が無防備に綻ぶたびに、大人の包容力と子どものようなあどけなさに、「トヨエツサイコー!!」と日本中が腰砕けとなったのでした。

一方で紘子を演じた常盤貴子のヒロイン感も別格です。常盤貴子といえば、90年代後期を代表する連ドラの女王ですが、その快進撃の始まりはこの『愛していると言ってくれ』でした。

とにかく常盤貴子は、恋をしている瞬間の表情が抜群にいいのです。人は誰かを好きになるとこんなふうに目が輝くんだということがありありと伝わるチャーミングな表情。特に紘子は生命感と躍動感がたっぷりで、転びそうな勢いで一生懸命走っている姿が今でも鮮明に浮かんできます。

この紘子というキャラクターは無邪気さの一方で無神経さもたぶんに孕んだ女性で、その幼くて身勝手な振る舞いはともすると視聴者の反感を買いやすい一面も。『愛していると言ってくれ』が多くの人たちの心に残るラブストーリーとなったのは、そんなリスクと背中合わせになりながら、紘子を愛すべきヒロインへと仕立てた常盤貴子の力があってこそ。

まるで真っ二つに切った果実の断面のように、生まれたての感情が新鮮に溢れ出てくるのが常盤貴子の演技の特筆すべき点。それが、危なっかしいんだけど、一生懸命で目が離せない紘子というキャラクターにぴったりマッチしていました。

豊川悦司のナイーブさと、常盤貴子のダイナミックさ。相反するふたりの化学反応が、『愛していると言ってくれ』を唯一無二のラブストーリーへと昇華したのです。

特別編の放送も残すところあと2回。25年ぶりに甦ったふたりの恋に、あの頃の自分を重ねながら思い切り溺れてみませんか。
 

<番組紹介>
『愛していると言ってくれ 2020年特別版』
TBS系で放送中(※一部地域を除く)
第3回:6月14日(日)14:00〜17:00
第4回:6月21日(日)14:00〜17:00
文/横川良明
 


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著者一覧
 
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

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ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002

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メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

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ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

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ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

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ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。18年に大腸がん発見&共存中。

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ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

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ライター 渥美 志保
TVドラマ脚本家を経てライターへ。女性誌、男性誌、週刊誌、カルチャー誌など一般誌、企業広報誌などで、映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がける。yahoo! オーサー、コスモポリタン日本版、withオンラインなど、ネット媒体の連載多数。食べること読むこと観ること、歴史と社会学、いろんなところで頑張る女性たちとイケメンの筋肉が好き。寄稿中の連載は、
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