ウイルスが減って重症化していることもある

 

そもそも何かの病気に「有効である」というためには、「死亡を減らす」「症状が改善する」「治癒までの時間が短縮する」など人にとって重要なアウトカム(「成果」の意。これを「真のアウトカム」と呼びます)を直接証明する必要があります。

 

一方、「PCR検査が陰性になる」「ウイルス量が減る」というのは「代用アウトカム」と呼ばれます。ここには、例えば「ウイルス量が減っているのであれば病気も改善しているはずだ」という前提が必要になりますが、現実にはこれらの代用アウトカムがいくら改善しても真のアウトカムは改善しなかったり、悪化したり、現実と乖離することがいくらでもあります。

実際に、重症化する患者の体内のウイルス量はすでに発症時より減少していることが知られています(参考2)。研究結果を見る際に、同じ「改善した」でも「何が」改善したのかに目を向けることが大切なのです。
 

ポビドンヨードうがい薬の「副作用」


また、新たな仮説が提唱された時、有害性に目を向けることも重要です。「さて、有効性のことはわかったが、有害性はあるのだろうか。」このように一度ポーズをとって考えたり、調べてみたりするのです。

例えば今回のポビドンヨードで言えば、ヨード摂取に伴う有害性はどうか、という点です。実際、適量のうがい薬を使用している分には問題になりませんが、過量摂取をすれば、甲状腺の病気を発症させたり、悪化させたりする可能性があります。また、妊婦さんや授乳をされている方は、ヨードが胎盤を通り、乳汁に分泌されるため、胎児に影響が出ることも懸念されます。

加えて、ヨードは、口の粘膜の上で人と共生し、体を守ってくれている常在菌まで殺してしまったり、口の粘膜を傷つけたりすることも懸念されます。

そこまで思いを巡らせれば、「本当に良いことなのだろうか?」と疑問も湧いてくると思います。

このようなメリット、デメリットの両面を天秤にかけるために、綿密にデザインされた臨床試験の積み重ねが必要となります。それにより初めて「有効で安全である」と言えるのです。一つの試験が全てを解決、とは残念ながらなりません。

今回の発表は、まだ仮説の段階にあることを、比較的未熟な研究結果を根拠に、まるで仮説が全て実証されたかのようにして広がってしまったという事例でした。「嘘のような本当の話」と表現されていましたが、「本当」というには根拠が不十分でした。
 

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